徹底解説 乳がんのなぜ?

北斗晶も苦悩した「全摘出と部分切除」の境目

乳がんを告白した北斗晶
乳がんを告白した北斗晶(C)日刊ゲンダイ

 元女子プロレスラーでタレントの北斗晶(48)が右乳房の全摘出手術を選択したことに、驚いた人も多いのではないか。

 乳がんの進行度は0期からⅣ期の5つのステージに分けられる。0期はがんが乳管内にとどまっている非浸潤がん。0期とがんが小さくリンパ節への転移がないⅠ期を早期がん、Ⅲ期を局所進行乳がん、Ⅳ期は遠隔転移のあるがんをいう。

 一般的に0期~Ⅱ期は手術、Ⅲ期は抗がん剤の後に手術を検討する。がんの大きさが2センチ強で、わきのリンパ節に転移があるとされる北斗の病期はⅡb期以上とみられ、仮にⅡb期なら乳房温存療法(部分切除+放射線治療)の適応内だ。

 にもかかわらず、なぜ、北斗は全摘を選んだのか。

 複十字病院乳腺センターの武田泰隆センター長が言う。

「問題はがんができた場所です。北斗さんの乳がんは乳頭の真裏あたりにあったと報じられています。それだと、乳頭も含めて切除することになり、形のよい乳房を残すことは困難です。通常、乳がんはがんの周り2センチくらいの安全域を取って切除します。がんの取り残しをなくし、再発リスクを抑えるためです。北斗さんのように2センチの大きさのがんを部分切除する場合は、直径6センチぐらいをくりぬくことになる。それなら、無理して部分切除するより全摘した方がいいと判断したのでしょう」

 全摘なら取り残しのリスクが減り、少なくとも同じ場所に再発するリスクはほぼなくなる。手術後に再発防止のための放射線治療を受ける必要もない。

「そもそも温存療法は、①部分切除で完全にがんが取り切れ、再発率を高めない②見栄えが良好な乳房を残せる③放射線治療が行えることが適応条件。かつてはがんの大きさが3センチ以下を適応としていましたが、今は上記の条件をクリアできれば、部分切除を行うことが可能です。しかも、全摘と予後が変わらないというデータが出たことから、世界的に温存療法が人気になってきました。最近では温存療法の適応があっても、全摘するケースが増えています」(武田センター長)

 実際、米国では温存療法は減少傾向にあり、日本でも頭打ちになっている。その理由は乳房再建技術の進歩と保険適応にある。乳房の縦、横、高さを正確に測定し、自分に合った自然な形の人工乳房で、再建することができる。左右の乳房のバランスが崩れてくれば再度、再建手術を受けることも可能だ。

 乳がんの全摘手術中に乳房再建を行い、患者が全身麻酔から目覚めた時には、胸の膨らみが残っていて、安心することもできるようになった。

「これは乳がんの手術と同時に、皮膚を伸ばすエキスパンダー(組織拡張器)を入れる方法です。その後、半年ほどかけて生理食塩水を足していき、皮膚を伸ばします。乳房の膨らみまで伸びたら、インプラントと呼ばれる人工乳房と入れ替えるのです。このやり方だと、全摘後に改めて乳房再建するより身体的負担も精神的ショックも少なくて済みます。また、部分切除した場合は、その後の放射線照射による皮膚の変色や乾燥感などがある。これも、全摘+乳房再建では術後照射が不必要となるため、回避することができます」(武田センター長)

 乳房温存にこだわる理由は、確実に減りつつあるのだ。