徹底解説 乳がんのなぜ?

再発リスクと抗がん剤の効果を予測する遺伝子診断

乳がんを告白した北斗晶
乳がんを告白した北斗晶(C)日刊ゲンダイ

 全摘出であれ、部分切除であれ、乳がんの手術後は再発予防のために抗がん剤やホルモン剤などの薬物投与が一般的だ。手術で大きながんの塊を取り切っても、目に見えない微小ながん細胞が全身を駆け回っていることが考えられるからだ。

 しかし、抗がん剤は乳がん患者にとって恐怖の的だ。副作用で髪の毛が抜けたり、強い吐き気に苦しむイメージがある。

 乳がん手術で右乳房を全摘出した元女子プロレスラーでタレントの北斗晶(48)も、抗がん剤の副作用による脱毛に備え、髪の毛をショートにしたり、不安をブログにつづっている。

 ところが、乳がんのなかには再発リスクが低かったり、抗がん剤が効きにくいタイプがある。副作用に苦しんでも、抗がん剤投与はそれに見合ったメリットが得られないケースもあるのだ。

 そこで注目されているのが、日本でも受けられる「オンコタイプDX」や「マンマプリント」といった多重遺伝子診断。複十字病院乳腺センターの武田泰隆センター長が言う。

「オンコタイプDX検査は、乳がん組織に含まれる21個の遺伝子を測定・解析し、10年間の再発リスクを予測するものです。再発リスクは数値で判定され、100点満点中17点以下は低リスク、18~30点は中間リスク、それ以上は高リスクに分類されます。低リスクの場合は、抗がん剤を使わなくても、再発リスクはほぼないとされています」

 この検査を受けられるのは、ホルモン受容体が陽性で病期がⅠ(しこりが2センチ以下でリンパ節への転移がない)~Ⅲ期の比較的軽い乳がんが対象だ。

「乳がんの約7割は、女性ホルモンをエサにして大きくなる性質があります。しかし、残りの約3割は女性ホルモンのエサがなくても増殖することから悪性度の高いがんということになります。そのため、手術で切り取られたがんの中の女性ホルモンの受容体の有無を調べます。ホルモン受容体がなければ、女性ホルモンをエサにしない悪性度の高いがん、あれば悪性度の低いがんということになります。また、わきの下のリンパ節への転移がなければ、進行度が低いと判断されます。そのため、ホルモン受容体が陽性で、腋窩リンパ節転移陰性(閉経後はわきの下のリンパ節転移陽性でもOK)であることも検査条件になります」(武田センター長)

 一方、「マンマプリント」は70種類の遺伝子を解析することで、遠隔転移のリスクを調べるもの。こちらは、60歳以下で、病期ⅠとⅡの腋窩リンパ節転移3個以内の早期乳がんの人が対象。ホルモン受容体の有無は問わない。

「ただし、保存された過去のがん組織でも検査が可能なオンコタイプDXと違って、こちらは手術後すぐの新鮮ながん組織での検査が必要となります。そのため、検査会社に送るときの準備が簡単ではありません」(武田センター長)

 遺伝子検査は数多くの遺伝子を調べれば調べるほど精度が安定する。そのせいか、オンコタイプDXが米国の保険会社に認められているのに対して、マンマプリントは米国食品医薬品局(FDA)が承認している。

 問題は、どちらの検査も保険適用外なので自費診療となり、50万円前後の高額な費用と、検査が米国で行われるため時間がかかること。

 それでも、「ウィーンでの今年の国際会議で推奨されたこともあり、多重遺伝子診断を希望する人は増えている」(武田センター長)という。