老いた親がよく転ぶ…それなら「治る痴呆症」の可能性あり

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 老親がよく転ぶと思っていたら、認知症だった──。最近、分かってきたことだ。しかし、この“よく転ぶ認知症”の場合、「治らない」と落ち込む必要はない。手術で治るのだ。

 Aさんは、愛知県に住む60代の母親から「お父さんが転んで脚にヒビが入った」との電話を受け、週末に帰省した。

「最近、お父さんよく転ぶのよ。足腰が弱くなっているのかしら」

 文句を言う母親の横で、70歳を越えた父親は黙り込んでいる。健康に自信を持ち、積極的な性格で口達者な父親だっただけに、Aさんは違和感を覚えた。

 テレビのニュースを見て、「この政治家はなっとらん」と批判することが常だった父親。ところが、今は批判どころか、テレビを見ているうちに早い時刻から寝てしまう。これにも、Aさんは引っかかった。

 ただ、「年を取ったから仕方がない」という気持ちもあった。妻や会社の同僚からも、「ウチの親も急に老いが来た」「若い頃の勢いはなくなって当然」などと言われ、納得してしまった。

 1年後。“お漏らし”が増えた父親を近所のクリニックに連れていくと、「認知症のアルツハイマー病」と診断された。とうとう来たかと、Aさんは観念。処方された薬を飲ませることになった。

 その1年後、雑誌で「治る認知症」の症状を見て、父親にぴったり当てはまると思った。そこに紹介されていた病院を受診したところ、結果は認知症のひとつである「特発性正常圧水頭症」だった。後に説明する「タップテスト」後に手術を受けると、父親の症状は激変。2年前の“健康的で積極的で、口が達者な父親”が戻ってきた。

 特発性正常圧水頭症は、現時点で原因は不明だ。脳や脊髄の表面を覆い保護する役割の髄液が脳室にたまり、周囲の脳を圧迫して、歩行障害、物忘れ、排尿が間に合わないなどの症状が出てくる認知症の一種だ。

■手術で驚くほと改善

 認知症には、アルツハイマー病型、レビー小体型、脳血管性などいろいろあるが、特発性正常圧水頭症の決定的な違いは、「手術で治る」こと。ほかの認知症は、症状の進行を遅らせられても、ストップはできないし、“元通り”にはならない。

「だからこそ、適切な診断が重要。しかし、それが行われておらず、別の認知症やパーキンソン病、うつ病などと誤診され、違う治療を受け続けている患者が非常に多いのです」と言うのは、特発性正常圧水頭症治療の第一人者、東京共済病院・桑名信匡院長だ。

 この病気の特徴は、歩行障害だ。

「さっさと歩けなくなり、小刻みでちょこちょこ歩きしかできなくなる。高齢者で転倒を繰り返す人の多くは、特発性正常圧水頭症が原因かもしれないとも考えています。これはかなりの確率で当たっているでしょう」

 物忘れ、排尿が間に合わないなどの症状も表れる。アルツハイマー病でも排尿が間に合わないことはあるがかなり進行しないとならない。一方、特発性正常圧水頭症では早期や軽症でも見られる。

 MRIで脳室拡大の有無を調べ疑いがあれば、一度腰に細い針を刺してたまった髄液を抜く「タップテスト」を行う。局所麻酔をするので痛みはなく、20分ほどで終わる。症状が改善するようであれば、たまった髄液を排出させるバイパスを作るシャント手術になる。

「Aさんのように、驚くほど手術で変わります。“年のせい”と思って見逃しているケースも多いのですが、おかしいと思ったら、一度検査を受けてください」

関連記事