その症状は…病気のサイン

【歯が痛い】1割は歯ではない部位の関連痛

「虫歯じゃないのに右上の奥歯が痛いんです。神経がダメになっているかもしれないので、いっそ抜いてもいいと思っています」

 手島俊之さん(仮名・43歳)は、食事時に急な歯痛があって虫歯を治療した。それでもビリビリとした痛みが続いているので、その歯を抜いて神経を取ってしまおうと考えているという。しかし、これは神経を抜いても治らない深刻な病気かもしれない。

 東京歯科大学水道橋病院・口腔顔面痛みセンターの半田俊之医師は言う。

「歯が痛む原因の9割は虫歯や歯周病といった歯に由来する『歯原性歯痛』ですが、歯ではない部位からの関連痛による『非歯原性歯痛』が1割弱あります。まれに『狭心症』や『心筋梗塞』の兆候が歯痛として表れる場合も。歯痛だけというケースはかなり少ないですが、下あごの奥歯の痛みを伴うことがあります」

 非歯原性歯痛の7割は「筋・筋膜性歯痛」といい、肩こりなどの筋肉痛からくる痛みだという。

「原因が分からないまま悪くもない歯を抜いてしまったり、神経を取ってしまった後で、当院を受診される人も少なくありません。デスクワークの長い人、ストレスの多いタイプがなりやすいようです」

 長時間パソコンに向かうことによる肩こりやストレスによって、就寝中などに無意識のうちに歯を食いしばり、筋肉痛が起こって歯痛として表れる。

「上あごの奥歯ならこめかみ、下あごの奥歯は首の後ろというように、押すと歯が痛むトリガーポイントが数カ所あります。それを押してみて痛む歯があれば、筋・筋膜性歯痛である可能性が高い。この場合、適切なストレッチや該当するトリガーポイントに注射をすれば治ります」

 歯ぎしりなどによる筋肉疲労のシグナルは軽くて分かりにくく、慢性化すると治りにくい特徴がある。

「上あごの奥歯の痛みの場合、『神経血管性歯痛』や『上顎洞性歯痛』も考えられます。目の奥からの激しい頭痛をともなうケースは、前者の可能性が高い。頭部の血管が拡張して起こるといわれる群発性頭痛に由来する歯の痛みで、これには発作的にやってくることが多い頭痛を予防する投薬で対処します。後者は耳鼻科や口腔外科の領域です。上顎洞という鼻の横に広がる空洞に膿がたまる蓄膿症によって歯の根っこの神経にばい菌が入り、歯痛が起こります」

 急性だとズキズキした虫歯のような痛み、慢性では圧迫感のある鈍痛が特徴だ。では、ビリビリとした歯痛だという手島さんは何なのか。

「電気が走るような電激痛があるといわれるのは、『神経障害性歯痛』の中の『三叉神経痛』の可能性が高い。顔面の感覚をつかさどる三叉神経に血管が圧迫することによって痛みをもたらすといわれています。食事中や歯磨き、洗顔の際にビリッとした痛みを感じるケースが多いようです」

 発作的な片側顔面痛が特徴といわれる三叉神経痛だが、歯痛から始まることもあるという。除痛効果が高い抗痙攣薬があるが、それでも改善しない場合は神経と血管を離す手術の可能性もある。

 繊細な場所なので医師選びが重要になることはいうまでもない。

「三叉神経を圧迫しているものが血管ではなく、脳腫瘍の場合もあるので慎重な検査が必要です」

 歯や神経を抜く前に、口腔顔面痛みセンターやペインクリニック科の受診をお勧めする。