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【突然死の予防】横浜南共済病院・循環器内科(横浜・金沢区)

横浜南共済病院の西﨑光弘循環器センター部長
横浜南共済病院の西﨑光弘循環器センター部長(提供写真)

 国内の突然死は年間約10万人いるといわれ、その6割が心臓の異常で起こる心臓突然死。原因の大半は不整脈のひとつ「心室細動」だ。

 心室細動は、心筋梗塞や肥大型心筋症などの心臓病があると起こりやすいが、心臓に器質的な異常がないのに起こる特発性心室細動もある。働き盛りで元気だった人が、ある日突然、睡眠中などに死んでしまう通称「ぽっくり病」がそれだ。

 同科が特に力を入れて取り組むのが、1990年代初頭から注目してきた「冠攣縮性狭心症」による心室細動。その不整脈が起こる原因を究明し、これまで数多くの論文を発表してきた。西﨑光弘・循環器センター部長(写真)が言う。

「通常の狭心症は動脈硬化で血管が狭窄して起こりますが、冠攣縮性は普段は血管の狭窄はありません。副交感神経が優位のときに突然、血管が痙攣を起こして狭窄する。夜、寝ているときなどの安静時に胸が痛む狭心症発作が起こるのが特徴です」

 怖いのは、冠攣縮性狭心症で発作を起こすと、そのまま心室細動へ移行する危険性があることだ。それがいつ起こるか分からない。自分が冠攣縮性狭心症をもっていることを知らないまま、初発の狭心症発作のときに心室細動が起こって、突然死する恐れもある。

「冠攣縮性狭心症は日本人に多く、全狭心症例の40%を占めますが、すべての人に心室細動が起こるわけではありません。ただ、心電図の波形で心室細動を起こしやすい人のリスクが分かってきました。J波やTWAなどの特徴的な心電図波形があるとリスクが高い。しかし、これらの波形は正常の人でも見られるので、いかに冠攣縮性で心室細動のリスクの高い狭心症の患者さんを見つけるかが大切になるのです」

 長年、蓄積してきたデータと経験があるので、同科のリスク評価の精度は高い。

 狭心症に対する治療は通常の薬物療法が行われるが、発作を繰り返し、心停止や失神を起こす心室性頻脈が認められれば、心室細動が起きた場合に突然死を防ぐ2次予防としてICD(植え込み型除細動器)が検討される。

 ICDは、電池とマイクロコンピューターが搭載されている本体からリードが出ている装置。本体は左鎖骨下の皮下に植え込み、リード先端は静脈を通して心臓内におく。心室細動が起きたら自動的に感知して、電気ショックで心臓の動きを正常に戻す治療器だ。

「当科ではICDの治療を積極的に行っています。一度心室細動が起こると3~5分で脳死状態になる。たとえ助かっても低酸素脳症などの後遺症が出やすく、再発率も20%と高い。予防することで、患者さんはいつ突然死を起こすか分からない恐怖から解放されるのです」

 植え込みは局所麻酔と静脈麻酔で行われる。所要時間は2~3時間で、入院1週間。半年に1回の定期検査が必要で、6年ほどで電池が切れたら本体だけを交換(所要時間1時間、入院3~4日)する。

 1997年12月に現形のICDが保険適用になってから、同科の実施数は300症例以上にのぼる。

▽国家公務員共済組合連合会が運営する神奈川県内の病院(5施設)のひとつ
◆スタッフ数=常勤医師12人
◆年間初診患者数(2014年度)=736人(紹介患者58%)
◆ICD(植え込み型除細動器)実施数=年間約30例