独白 愉快な“病人”たち

元プロボクサー 竹原慎二さん(43) 膀胱がん

竹原慎二さん
竹原慎二さん(C)日刊ゲンダイ

 2年前のことです。トイレに行ったのに、またすぐ尿意がくる。走ると膀胱が刺激されてまたトイレ。酒をやめてもダメ。膀胱炎の薬を飲んでも効かない。膀胱炎の菌も見当たらない。

 かかりつけ医からは「前立腺肥大だから、うまくつき合っていくしかない」と言われて。年齢的にはかなり早いけど、「年には逆らえないのか」とも思っていたんですよね。

 ところが、カレーなど辛いものを食べると、尿意を催す1時間前あたりから膀胱の近辺が痛くなる。排尿時は、熱い塊が尿道から出る感覚に襲われるときもあって。不定期ですが、のたうち回るほど痛い。そして、ついに大晦日に血尿が出たんです。

 年明けに総合病院を受診すると、「腫瘍は見つからないが、血中のがんの数値が高い」と言う。でも、1カ月後に生検をすると、膀胱に2・5センチの腫瘍が見つかり、その場で切除しました。病理検査に出したらリンパ節への転移もわかった。

「ステージで言うと、どのくらいでしょうかね?」と尋ねると、「まあ、“3”でしょうね」と。

 ネットで調べると、リンパ節への転移で生存率は30%台。セカンドオピニオン、サードオピニオンと違う病院を訪ねても結果は変わらず、聞くたびに落ち込む。「俺はもう死ぬんだ」とため息がこぼれました。

 生検した病院で治療することに決めたのですが、方針を聞くと「君に専門治療がわかるのか」と言わんばかりで。自分の血液中の免疫細胞を採取・増殖させて体内に戻す「免疫療法」をやりたいと言っても、根拠がないと一蹴。検査データの貸し出しも渋々……。

 ボクシングジムを共同で経営している畑山(隆則)に話したら「専門病院で納得のいく治療をしたほうがいい」と言う。それで病院をキャンセルし、東大病院に変更した。こちらの医師は俺の意向を聞き入れてくれるし、スタッフの方が皆やさしい。治療に対する心理的な負担はかなり減り、病院選びも大事だと気づきましたね。

 治療は、2カ月間の抗がん剤治療でがんを小さくしてから手術をする方針。治療開始から3週目に髪がごっそり抜け落ちました。

 手術は、リンパ節と膀胱の全摘出と、小腸を60センチ切って代替の膀胱を作るというもの。別の臓器が膀胱になるなんて、人間の体ってすごいもんです。パウチ袋を外付けする人工膀胱は免れたものの、術後の痛さがハンパじゃなかった。全く歩けない。ボクシングのダメージなんて比じゃありません。リンパ節を取ったせいで、いまだに内腿にしびれも残っていますしね。

 代替の膀胱とはいっても、尿意はないんです。負荷をかけると壊れるので、食べすぎはダメだし、2時間刻みの排尿は必須。夜中も携帯の目覚ましで2時間おきに起きてトイレに行きます。毎日ゆっくり眠れないのが一番つらい。

 でも、こうしてがんと向き合って、人生観が変わったね。今までは「とにかくカネを稼いでやろう」と思ってきたし、それが実現できるのがボクサーだと思っていた。ところが入院して、女房やたくさんの人に支えられ、治療費が1000万円もかかってみて、健康が一番だと実感しました。

 体の不調も不安もあるけれど、仕事に集中すると忘れられるし、経験を話すことで勇気を与えることもできる。これは俺の仕事の特権です。

 去年、うちのジムで女子のチャンピオンが誕生したので、次は男子チャンピオンを育てて、みなさんに勇気を与えたいと思っています。

▽たけはら・しんじ 1972年、広島県生まれ。89年プロデビュー、95年に日本人初のWBA世界ミドル級王座を獲得。現在は、竹原慎二&畑山隆則のボクサ・フィットネス・ジムの会長を務める。ヤフーウェブマガジンで「竹原慎二の続・ボコボコ相談室」を連載。