独白 愉快な“病人”たち

歌手 伍代夏子さん(53) C型肝炎

伍代夏子さん
伍代夏子さん(C)日刊ゲンダイ

 33歳の時、劇場公演を控えていたので、何の気なしに健康診断を受けたんです。すると、「肝機能の数値がちょっと高い」と言われ、再検査を受けたら、C型肝炎という結果。感染原因が全く思い当たらないので驚きました。ただ、当時は病気の知識がなかったので、楽観的でしたね。

 担当医によれば、私のウイルスは機嫌よくお休みしている状態。急に機嫌が悪くなって暴れだしたら、インターフェロンという薬で叩かなくてはならない――とのことでした。

 私は、どちらかというと白黒はっきりつけたい性格。薬があるなら今すぐ治療を始めたい。

 ところが先生は「タイミングが大事。副作用が強く、100%完治するとは言えない。あなたの場合、今はする治療がない」とおっしゃり、月1回の経過観察になりました。

 それから10年。数値は安定したままで、先生からも「今後大事になることはないんじゃないか」とお墨付きをいただいていたのですが、ある時、同じ病気のヘアメークの方から「新薬で治った」という話を聞いたんです。

 そういえば以前、先生からも「新薬が出たら、完治する確率が格段に上がる」と聞いていました。ウイルス量が安定しているとはいえ、ウイルスを持っているということは爆弾を抱えているようなもの。治るのなら、これほどうれしいことはない。

 すぐに主人(歌手、俳優の杉良太郎さん)に相談すると、「知り合いの医者がいるから、受けてみてはどうか」と。ぐちぐち悩むタイプではないので、じゃあ、新しい薬の治療を受けようと即決しました。そして、2009年8月、東大での新薬の治療が始まったのです。

 治療の目安は1年ほどとのことでしたが、実際はトータルで1年半かかりました。従来のインターフェロンに比べ、副作用は少ないというものの、やはり大変でした。

 高熱が出て、貧血がある。薬を投与して3日くらいは、富士山の8合目にいるのではないかというほど貧血がひどい。目の玉をキュッと動かすだけでクラッとし、何もする気が起こらない。日が経つにつれ少しずつ元気になるのですが、1週間すればまた投薬で、同じつらさの繰り返しです。

 貧血で酸欠状態になり、普通はノーブレスで歌うところを、1回ブレスを入れる。みなさんには分からなくても、自分は気持ちよくない。コンサートになると、歌の合間にワーッと走ってバババッと着替え、舞台に戻る。ゼーゼー言ってるけど、何食わぬ顔で出るのが私たちの仕事です。主人が酸素スプレーを買ってくれ、よくスーッと吸っていました。

 ただ、仕事の調整は一切せず、公表もしませんでした。もちろん隠してはいないので、“忙しい最中の美容法は……”といった別の取材の時などにちょこちょこ話していたんですけど、“へぇー”という程度で。ところが、杉さんが新聞の連載で「妻が闘病中」「大変で死にそうだ」などと書き、いつの間にか広まってしまいました。

 自分の経験を通してみなさんにお伝えしたいことは、ぜひ一度、肝炎の検査を受けてくださいということです。C型肝炎ウイルスを持っていても、症状は全くありません。

 私自身、疲労感はありましたが、仕事が忙しいから仕方がないとしか思っていませんでした。今はいい薬がありますし、C型肝炎は治る病気。ウイルスが増殖する前に早期発見し、早期治療を受ければ、体への負担も少ないでしょう。

 3年前から、厚労省の「知って、肝炎」プロジェクトの肝炎対策特別大使として活動しています。ひとりでも多くの方に、肝炎の正しい知識を持っていただきたいですね。

▽ごだい・なつこ 1961年東京都生まれ。87年「戻り川」でデビューし、35万枚を超えるロングセラーに。その後も「水なし川」「忍ぶ雨」「雪中花」「ひとり酒」などヒットを連発。新曲「矢車草」が好評発売中。7月28日に渋谷公会堂で30周年記念コンサートを開催。4月3日からチケット発売。(問)[電話]03・3222・7982