独白 愉快な“病人”たち

発明家 中松義郎さん(86) 前立腺導管がん

中松義郎さん
中松義郎さん(C)日刊ゲンダイ

がんが見つかったのは、偶然がたくさん重なったおかげでした。常に3カ月に1度は検診をしているのですが、S字結腸の腫瘍を5年前に摘出したので、全快しているかどうか内視鏡で調べてほしいと医師に申し出ました。2年前のことです。

 医師は余計な傷をつくってはいけないと遠慮して、代わりにCTで調べてくれました。すると、腸は問題ないが、リンパが腫れているという。がんなら20ぐらいになるPSA値は4。全く健康の範囲でしたが、リンパの腫れの原因がわからないので生検をしたのです。

 体内からほんの一部を取るのが生検だと思っていたら、腹部に長い棒を12本も刺し、意外と大変。そして12本のうちの2本から、導管がんが見つかった。実は、生検のきっかけになった「リンパの腫れ」は誤診。でも、そのおかげで導管がんが見つかったのです。

 医師は「ものすごい悪い顔つきのがんです」と。導管がんは非常に珍しいがんで、余命は2年。放射線治療も効かず、陽子線・重粒子線治療をした前例がないという。つくばのがんセンターに直接行っても同様の見解でした。

そこで千葉の重粒子医科学センターに行くと、重粒子線治療をした患者は今まで2人だけで、2人ともうまくいかなかったので、3人目のあなたが挑戦しても死ぬであろうという見解。ダヴィンチによる部分切除は、患部を切除するために頭を30度下げた状態を長時間続けなくてはならない。そうすると緑内障や、下手をすると盲目になる可能性が高いので難しい。残るは全摘だが、これもまた転移する可能性がある──と、手段が何もない。

 ならば、がん先進国のアメリカへと、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学に行っても、導管がん患者自体が非常に少なく、治療実績がない。治療法も単なる提案にすぎない。

 これは自分自身で治療法を“発明”するしかない。フロッピーディスクを発明したのは東大2年のころで、実現化したのは25年後。でも、余命宣告から考えると、今回はそうはいきません。

 そこで「がんに勝つ10の方法」を自ら構築し、実践しています。食生活では、タンパク質、ナトリウム、リン、カリウムを除く食生活を心掛けています。これらはがんが喜ぶ、がんの餌になる栄養素で、科学的に実証されています。ところが民間療法では「ニンジンががんに効く」という意見が多い。ニンジンはカリウムが多く、問題。正しい情報に基づいた食が必要です。

 それから、体力。がんで寝ていてはやせ細るだけ。がんに勝つには最後は体力なんです。私は2日おきにジムで2時間、レッグプレス100回を含め、ハードなトレーニングをこなしています。食と体力。ここまでは守りです。さらに、がんをやっつけるロボット開発に取り組んでいます。

 がんは、私が天から授かった最大の発明テーマ。今、自覚症状はなく、体調は問題なし。睡眠時間は昔から変わらず4時間。講演なども断らず通常通り仕事はこなす。さらにがんの研究課題も加わり、むしろ多忙になっていますが、発明家人生をかけてがんにとどめを刺すマシンを開発し、完治させます。

▽なかまつ・よしろう 1928年東京生まれ。東京大学在学中にフロッピーディスクを発明。石油ポンプなど身近なものから、航空関連まで発明ジャンルは多岐にわたる。