来年度から、「患者申出療養」という新しい制度がスタートします。患者の希望に基づいて、未承認の薬や治療法を、混合診療として受けられるようにする制度です。
たとえば国内未承認の抗がん剤を試してみたい場合、薬代は全額患者持ちですが、それ以外は健康保険が適用されるようになります。そのため早くも「いよいよ混合診療の解禁か!?」と騒がれたりもしていますが、実態としては、「先進医療や薬の臨床試験(治験)の、部分的・限定的な拡張」といったほうが、当たっています。
ご存じのとおり、現行の医療制度では、混合診療が禁止されています。健康保険外の薬や治療をひとつでも受ければ、治療にかかった費用全額を、患者が負担することになるのです。ただし、新薬の治験と先進医療のみ、例外として混合診療が認められています。
治験とは、未承認薬の安全性と効果を確認するための、いわば人体実験。薬の費用は製薬会社が持ち、その他の検査や治療には、健康保険(患者3割負担)が適用されます。
先進医療は、新しい検査・治療に関する治験と思ってください。この場合、先進医療部分は患者負担、その他は健康保険でまかないます。有名な陽子線治療では、陽子線の照射が先進医療で、費用約300万円を患者が負担します。しかしそれに付随して行われる入院・各種検査や、並行して行われる治療・投薬などには、健康保険が適用されるのです。
治験も先進医療も、ある程度の人数の患者に試して、「効果あり」と判定されれば、健康保険の対象に格上げされていきます。ただ治験には、薬ごとに参加条件があります。対象となる病気以外にかかっていないことや、年齢制限など、多岐にわたります。先進医療も同様です。陽子線治療では、がんの大きさや遠隔転移の有無などが条件になります。
また、健康保険の対象となった薬や治療法には、適応疾患や用量・用法などが細かく規定されています。他の病気にも効く可能性があっても「保険適応外使用」と呼ばれ、全額自費負担になってしまうのです。
患者申出療法とは、治験・先進医療・保険適用外使用などの患者条件を緩和し、より多くの患者に門戸を開くことを目的としています。また、それによって薬や先進医療の評価期間を短縮し、できるだけ早く承認することを目的としています。
ただし、薬代は製薬会社ではなく、患者が負担します(先進医療の場合はすでに患者が負担しているので変わりありません)。
とはいえ、あくまでも“人体実験”ですから、安全性の確保が最優先。そのため国から指定された少数の病院で、まず患者の申し出に応じた治療計画を立て、次に安全性と効果を検討し、実施の可否を判定することになっています。
(医療ジャーナリスト・やなぎひさし)
医療用語基礎知識