しなやかな血管が命を守る

【脳梗塞の発症予防】 頚動脈硬化の治療は薬より手術

東邦大学佐倉病院の東丸教授
東邦大学佐倉病院の東丸教授(C)日刊ゲンダイ

 脳梗塞を予防するには、首の動脈である頚動脈の状態を知る検査を定期的に受けることが大切です。血管にしなやかさがなくなれば、血液をスムーズに送り出すことが困難になり、脳や心臓などに負担をかけるからです。

 硬くなった血管の内側はもろくなり、コレステロールなどが固まったこぶ(粥腫)ができます。その結果、血管を狭くしたり、はがれた粥腫が血管を詰まらせたりします。

 実際、頚動脈の平均血管壁が0.9ミリ以上厚くなったり、厚み1.1ミリ以上の隆起(プラーク)が増えたりすると、脳梗塞や脳卒中のリスクが高まることがわかっています。

 頚動脈の狭窄が進むと手足のまひなどの神経症状が一時的に起こり、自然に回復する「一過性脳虚血発作」(TIA)や、症状が継続する“ホンモノ”の脳梗塞が起こる危険性が高まります。

 では、頚動脈の動脈硬化がわかった場合、どのような治療を行えばいいのでしょう。

 まずは、頚動脈硬化の内科的治療(薬物治療)です。生活習慣病の中でも特に高血圧症や脂質異常症をお持ちの方は、その管理や治療にまじめに取り組むことが大切です。脂質を下げるスタチンという薬で、脳動脈硬化を改善し、降圧療法や脂質を下げることで、脳梗塞の発症が2~3割程度減少したというデータもあるのです。

 治療には血栓を予防する抗血栓薬を服用します。具体的にはアスピリン、チクロピジン(パナルジン)、シロスタゾール(プレタール)、クロピドグレル(プラビックス)などいわゆる“血小板が固まるのを防ぎ血液をさらさらにする抗血小板薬”です。これらの薬は、脳梗塞の発症予防に一定の効果があることが証明されています。アスピリンを主とした研究では、脳梗塞の再発予防として1~3割くらいの効果が報告されています。

 しかし、高度の頚動脈狭窄症では内科的治療だけでは不十分です。脳の血流不足によるTIAなどの症状がある場合は血管の内径が50%以上、無症状でも60%以上の狭窄があれば、外科的治療か血管内治療が検討されます。血管が80%以上詰まっていれば、治療は待ったなしです。

 外科的治療として代表的なものは頚動脈を露出し、狭窄の原因となっている動脈硬化の塊(粥腫)を除去する「頚動脈内膜剥離術」(CEA)です。

 麻酔をして頚部の皮膚を数センチ切開し、頚動脈を露出します。動脈を切開して、内シャント(頚動脈と末梢の内頚動脈をチューブでつなぐことにより、動脈血を脳に流す方法)などを作り脳の血流を維持、狭い部分の内膜や血栓をきれいに剥離摘出します。症状がない場合は脳梗塞などの合併症リスクはおおよそ3%以下ですが、症状があったり脳梗塞既往や他の心血管系の病気があったりするときは、数%に上ることもあります。

 血管内治療法は「頚動脈ステント留置術」(CAS)が主体で、足の付け根の動脈からゴム風船(バルーン)付きのカテーテルを挿入して、狭窄部を広げます。そしてステントと呼ばれる網目状金属の筒を留置して狭窄部を拡張させる治療法です。

 これは、直近の脳梗塞、虚血性心疾患や呼吸器疾患がある場合や、高齢や全身状態が悪いため手術が困難な人が適応となります。合併症は急性心筋梗塞なども含め0.5~6%です。70%以上の頚動脈狭窄では、内科的治療よりステントや剥離術の方が脳梗塞の発症を有意に予防できることが証明されています。術後の経過も良く、欧米の報告では、1年後の再狭窄はCASで3~6%、CEAでは3%以下と報告されています。

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。