独白 愉快な“病人”たち

タレント 毒蝮三太夫さん(78) 腸閉塞

 毒蝮三太夫さん
毒蝮三太夫さん(C)日刊ゲンダイ

 2005年12月、聖路加病院の日野原重明先生の文化勲章受章パーティーに出席した時、「腹がおかしいな」と思ったのが始まりだったね。食欲がないし、酒を飲みたいと思わない。その足で病院に行ってエコー検査はしたものの、精密検査が必要ってことで正月過ぎて落ち着いてから調べることに。腹にしこりがあるのも分かっていたし。マネジャーに言わせると入院までの2カ月、移動中は黙って寝ているだけで食欲もないから、いつもと全然違ったらしいよ。

 その年のNHK大河ドラマがタッキー(滝沢秀明)の義経で、年越しを鎌倉で過ごそうと、31日、女房と車で行った。名物のシラスの寿司を2、3個食べて元気だったのに、22時ごろになって猛烈に腹が痛くなった。これじゃ初詣どころじゃないと、宿をキャンセルして夜中に自分で運転して自宅に戻り、近所の病院に駆け込んだ。

「これじゃ手遅れよ! どうしてここまで放っておいたの!」といきなり、宿直の女医さんに叱られた。ガスでおなかがパンパン。そこの設備では対応できないということで、国立病院に電話を入れてくれた。大みそかの深夜だから病人は俺だけ。静かだからよく聞こえたよ。

「受けてくれなきゃ困ります!」

 電話口で女医さんが嘆願してくれて、国立病院に転院できた。そこでも「どうしてここまで放っておいたんですか」と言われたよ。

 痛みの原因は腸閉塞。小腸が大腸の腹壁に癒着していた。痛みが出るのが遅くて破裂していたら、致死率は4割以上。たまたま、宿直が外科の名医・磯部陽先生だったのと、最初に受診したのが熱意ある女医さんだったおかげで助かりました。

 女房は「もう生きて俺が家に戻ることはない」と思ったそうです。今じゃ笑い話だけど、入院の手続きで続柄を「妻」じゃなく、「姉」と書くぐらい気が動転していた。

 もともと糖尿の気があったのですぐ手術はできず、17日後に開腹手術。

 切除した腸を開いたら、腫瘍も見つかり、腹壁の癒着をとるのに6時間以上かかった。術後、磯部先生が疲れ切った顔をして出てきたほどの、大手術でした。

 入院中は、点滴の針を刺すのが痛くて「こんなに痛いなら点滴を外してくれ」って言ったことがあった。すると「私たちはあなたの病気が治ると思って治療しています。だから点滴を続けてください」と医師に言われてね。

 治してくれようとしている人たちがいることに気づき、“いい患者”になろうと改心した。69歳で人生2回目、41日間の入院生活でした。

 後日、日野原重明先生にお会いしたら、「入院もいい思い出でしょ? 『入院学』を学べますからね。入院することによって自分が必要とされているか、反省すべきこと、やるべきことが見えてくる。病気の方の痛みがわかるようになる。これが『入院学』なんです」と教えてくださり、なるほどなと思ったよ。

 今はジムのプールで週1~2回は水中ウオーキング。20センチもある傷口が目立たないよう、日焼けマシンで肌を焼いています。はやりの「日サロ」だね。

 人間、1回は大病したほうが食事の仕方も気の持ち方も変わる。「一病息災」もありだと思うな。

▽どくまむし・さんだゆう 1936年、東京都生まれ。TBSラジオの「ミュージックプレゼント」は今年で46年目、「毒蝮流!ことばで介護」(講談社)、「ババァ川柳」(河出書房新社)を上梓。DVD「銀幕を知る男『毒蝮三太夫』が選ぶ 発掘!蘇る昭和の大スター映画」(中日映画社)シリーズが発売中。