独白 愉快な“病人”たち

元衆院議員 与謝野馨さん(76) 下咽頭がん ㊦

与謝野馨さん
与謝野馨さん(C)日刊ゲンダイ

 39歳で悪性リンパ腫、62歳で直腸がん、63歳で前立腺がん、68歳で下咽頭がんにかかり、2年前、下咽頭がん再発による声帯切除をきっかけに議員を引退しました。

 今年でがんサバイバー歴37年。正直、議員は辞めたくなかった。でも、国民と話せないし、国会でも議論ができない。肝心なことは声で説明しないとダメなんです。声が制限されてしまうのでは議員を続けられない。引退を決意しました。

 下咽頭がんは歯痛がきっかけ。夜中に突然左下の奥歯が痛み出し、抗生物質など数種類処方してもらっても痛みは変わらず、そのうちに首の左側にしこりができ、飲み込む時に喉の奥になんとなく違和感を感じる。

 調べてみると人生4つ目のがんが見つかったのです。

 そして5年後に再発、翌年声帯も切除し、シャント法というプラスチックの弁を入れて発声する方法にしました。

 発声が楽で、全国で対応が可能だということがシャント法を選んだ理由です。ゲップを応用した発声法もあるのですが、かなり練習が必要。ところがシャント法は、小さなプラスチックの弁を喉に入れる手術だけ。喉元を手で押さえれば話せます。従来は手動で押さえていた部分を磁石で自在にふさぐハンズフリーという方法もあるけれど、一部の大きな病院でしか対応できない。地方や海外に出張できないのでは仕事にならないので前者を選びました。

 シャント法は聞き取りにくい言葉も英語もちゃんと伝わりますし、優れたものだと思います。ただし、無理やり気道を押さえますから、長時間になると誤嚥の危険性も高まります。そこで、1件の打ち合わせは45分程度に抑えています。

 通院は月に1回。弁が緩んだり、空気を運ぶ気道にカビが生えることもあるので定期的にメンテナンスが必要です。弁も交換が必要ですが、この弁が保険でお世話になっても3万円近くするので値段が高い。

 最近は、そういった機能を多くの人に知ってもらって、患者さんたちの負担を減らせるよう、シャント法に関する講演にも注力しています。いくら知識と機能を説明しても、音が出ないCDプレーヤーみたいなものでは意味がない。それよりも私がひと言話すだけで、シャント法の有用性が誰にでもすぐ分かる。

 がんはちゃんと治療すれば治る病気です。私は、抗がん剤は使ったほうがいいと思います。こうして途中再発を繰り返しながらも、大臣の仕事をこなせたのは、現代医学を信じて身を任せたおかげですから。ちなみに、この髪は地毛。抗がん剤治療で一度脱毛したおかげで黒々とした髪が生えてきました。これもある意味、抗がん剤治療のギフトですね。

 それから、がんと付き合うにはがん患者であることに“夢中”にならないことが必要だと思います。私は食事も変えず、仕事も減らさずにきました。

 今は引退して時間もできたので、趣味の宇宙論の勉強会の楽しみも増えました。実は70歳までヘビースモーカーで。もうこの年になると吸っても吸わなくてもそう変わらない。それより一服して心を落ち着ける方がいいですよ。お世話になっている先生方には申し訳ないけど、たばこはやめられないですね。

▽よさの・かおる 1938年東京都生まれ。中曽根康弘氏の秘書を経て76年衆議院議員に初当選。元経済財政担当大臣。12年、下咽頭がん再発による声帯切除で、気管食道シャント法で声を再建した。