臨床試験で症状改善 「プラズマローゲン」が認知症患者を救う

 厚労省の調査によると、団塊の世代が後期高齢者になる2025年には最大700万人が認知症になると予測されている。世界中でさまざまな認知症研究が進められているが、ここにきて注目を浴びているのが「プラズマローゲン」だ。

 認知症の半数以上を占めるアルツハイマー型認知症は、「アミロイドβ」や「タウ」といった異常なタンパク質が脳に蓄積して神経細胞が死滅してしまうことが有力な原因とされている。近年は、これらの異常なタンパク質を除去すれば認知症は防げるという方向で研究が行われているが、いまのところ目覚ましい成果は報告されていない。

 そんな中、新たな発見として注目されているのが「プラズマローゲン」という物質だ。リン脂質の一種で、人間を含むほとんどの動物の体内に存在している。酸化ストレスによる細胞のダメージを防ぐなど、細胞が活動するうえで欠かせない多くの根源的な役割を担っている。

 プラズマローゲン研究を進めている「認知症はもう不治の病ではない!」(ブックマン社)の著者のひとり、九州大名誉教授の藤野武彦氏(内科医)はこう説明する。

「プラズマローゲンは、細胞内にある小器官・ペルオキシソームという生産工場で作られています。認知症の患者さんは、この工場の稼働率が落ちたか、完全に閉鎖してしまった状態にあると考えられます。95年には『亡くなったアルツハイマー型認知症の患者の脳を解剖すると、海馬と前頭葉の両方において、リン脂質のうちでも特にプラズマローゲンの量のみが減少している』という論文が発表されています。07年にも『アルツハイマー型認知症の人の血清中でプラズマローゲンが減っている』という報告がありました」

■大量抽出技術の開発と実用化成功

 そこで、藤野氏や、共同で研究を進めてきたレオロジー機能食品研究所所長の馬渡志郎氏、九州大准教授の片渕俊彦氏らは、外からプラズマローゲンを補給すれば認知症の改善や予防に有効ではないかと考えた。これまでの“異常なタンパク質を除去する”方向とは逆の発想である。

「それまで、純粋なプラズマローゲンを生体から大量に取り出すことが難しかったため、臨床研究は全く行うことができませんでした。しかしわれわれは、当初は鶏肉、現在はホタテ貝からより有用な質の高いプラズマローゲンを大量抽出する技術の開発と実用化に成功し、規模臨床的研究ができるようになったのです」(藤野武彦氏)

 12年にはプラズマローゲンをマウスに投与し、「記憶・学習能力を向上させる」「アミロイドβの蓄積を抑制する」「神経細胞を新生させる」など、認知症の治療と予防に有効であることを実証。14年にはアルツハイマー病(軽症・中等症)40人対象の臨床試験(単盲検)で、プラズマローゲン摂取の有効性を確認した。また、オープン試験(中等症・重症認知症)中間報告での改善効果が発表されている。

 例えば、こんな改善例もある。

 アルツハイマー病の男性(73歳)は、昨夏から急激に症状が悪化。トイレがどこにあるか分からなくなり、幻覚も見るようになった。妻との会話はかみ合わず、暴言や暴力も。夜間頻尿は1時間置きだった。

 そんな重度の認知症患者が今春からプラズマローゲンの摂取を開始。すると1カ月後には幻覚が減り、3カ月後には認知症のスクリーニング検査「MMSE」(30点満点で23点以下だと認知症の疑い)が4点→7点に。食欲や自発性も出て、スムーズに会話できるまでに改善したという。

 現在は、大規模試験(300人・二重盲検)が進行中。認知症の予防や治療が一気に進化するかもしれない。

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