NHK BS1「国際報道2014」のメーンキャスターを務めていた黒木奈々さんが、先月19日、胃がんのため亡くなった。まだ32歳の若さだった。黒木さんには、見逃してはいけない“サイン”があったという。
黒木さんは昨年8月にステージⅠの初期胃がんと診断され、胃の摘出手術にも成功した。しかし、それからわずか1年ほどで転移が発覚して帰らぬ人となったことから、進行や転移が速く、30~40代の女性に多いとされるスキルス性の胃がんだった可能性が高いといわれている。
胃がんは、大きく分けて「分化型」と「未分化型」に分けられる。分化型は成熟した細胞ががん化したもので成長が遅く、予後は比較的良好とされている。一方、未分化型は幼い細胞が、がん化したもの。細胞がバラバラになって粘膜に染み込んで広がるため、進行や転移が速い。スキルス性は未分化型で、悪性度が高いのだ。
こうした未分化型がんのリスク因子とされているのが「鳥肌胃炎」と呼ばれる症状。黒木さんも、昨年8月に行った胃カメラ検査でヘリコバクター・ピロリ菌の感染と鳥肌胃炎が発覚し、その際の病理検査で胃がんと診断された。
日本消化器病学会専門医の江田証氏(江田クリニック院長)は言う。
「鳥肌胃炎は、女性や若年者がピロリ菌に感染すると起こる特徴的な胃炎です。胃の表面にブツブツとした顆粒状の盛り上がりが広がり、毛をむしりとった後の鳥の肌にそっくりなことから名付けられました。原因はピロリ菌感染で、ピロリ菌を退治しようと過剰反応した大量のリンパ球が胃の粘膜に集まり、顆粒状の隆起を作ります。過剰に集まったリンパ球は、自分の胃の粘膜まで傷つけてしまい、激しい炎症を起こします。そのため、胃がんになりやすくなるのです」
ピロリ菌に感染していると、100%が慢性的な胃炎を起こし、それが続くと「萎縮性胃炎」になるケースが多い。萎縮性胃炎は胃の粘膜が薄くペラペラになるもので、これも胃がんの原因になる。
しかし、中にはピロリ菌に感染したあと、萎縮性胃炎ではなく鳥肌胃炎になる人がいる。
「なぜ、萎縮性胃炎ではなく鳥肌胃炎になってしまうのかは、まだハッキリとわかっていませんが、体質的に免疫反応が強く、リンパ球が過剰反応してしまう人が鳥肌胃炎になると考えられています。そういう人は胃の粘膜で起こる炎症が強いため、胃がんになるリスクが高い。それも、未分化型が多いこともわかっています」(江田氏)
もちろん、鳥肌胃炎の人が100%胃がんになるわけではない。しかし、鳥肌胃炎がある人は、ない場合と比較して、胃がんのリスクが59倍高いという日本の研究報告もある。
■ピロリ菌の除菌で対策を
しっかり対策しておいたほうがいい。
まずは胃の内視鏡検査を受けて、鳥肌胃炎があるかどうかをチェックする。そこで鳥肌胃炎が見つかった場合、なるべく早くピロリ菌の除菌を行う。
「ピロリ菌を除菌すれば、1年ほどで胃の表面にあるブツブツがなくなって平らになり、鳥肌胃炎から萎縮性胃炎に変わっていきます。除菌に失敗するケースもありますが、3回行えば100人中99人は成功するので、1度失敗してもあきらめないでください。中高生も5%がピロリ菌感染していて、鳥肌胃炎になっているケースもある。早い段階で除菌することが大切です」(江田氏)
古い知識しかない医師の中には、鳥肌胃炎が見つかっても〈女性によく見られる胃炎だから心配ない〉などと放置してしまう場合があるという。
自分の身を守るためにも、信頼できる医師を選びたい。