今押さえておきたいがん治療

「高濃度ビタミンC点滴療法」で末期患者の全身の痛みが焼失

 末期がんで打つ手がなくなった時、どの“道”を選ぶかは、その人が“どう生きたいか”につながる。神奈川県在住のAさん(61)は、「とにかく、耐えがたい痛みを取ってもらいたかった。“治療”という考えは全くなかった」と話す。

 Aさんは46歳の時、ステージⅡの胃がんが見つかり、手術と抗がん剤治療を受けた。6年後の2006年には、肝臓に多発性転移が認められた。Aさんは抗がん剤を使用せず、温熱療法や食事療法などの自然療法を受けた。

 翌年、全身の骨転移で歩けなくなった。さらに翌年、主治医から「治療法はない」とホスピスを勧められた。

「そんな時、痛みの改善に役立つ高濃度ビタミンC点滴療法について知ったのです」

 Aさんを診察した「スピックサロン・メディカルクリニック」(神奈川・鎌倉)の柳澤厚生院長が言う。

「初診時のAさんは体重22キロで、1~2週間で最期を迎えてもおかしくない状態。当初、別の入院できる病院を勧めましたが、ご本人の希望で高濃度ビタミンC点滴療法を行うことになりました。ただ、回復の期待は持てませんでした」

 高濃度ビタミンC点滴療法は、米国で始まった治療法だ。米国立衛生研究所、国立がん研究所、米食品医薬品局は「高濃度のビタミンCはがん細胞を殺す」という内容の複数の研究結果を医学雑誌に共同発表している。

 また、アイオワ大学はすい臓がん、カンザス大学は国立衛生研究所とともに卵巣がんへの治療効果を発表。日本でも東海大学医学部などが研究に取り組んでいる。

「ビタミンCを点滴で体内に投与すると強力な抗酸化作用を発揮し、大量の過酸化水素を発生します。正常な細胞は過酸化水素を中和できるが、がん細胞は中和できずに死んでしまう。ビタミンCは高濃度でも水溶性なので体外に排出される。副作用の心配がなく、抗がん剤の副作用を減少させることも明らかです」

 経口投与だと、血中のビタミンC濃度は高くなっても、すぐ排出されてしまう。しかし、点滴で投与することで、はるかに高濃度な状態を長時間保つことができ、それががんを効果的に殺す。

 前出のAさんは、約1カ月で痛みが消失。2カ月後には家事を普通にこなせるようになり、22キロだった体重が現在は42キロまで増えて“普通の生活”を送っている。

「高濃度ビタミンC点滴療法だけで末期がんが治るとは言えない」と柳澤院長は指摘。しかし、がんによる痛みや抗がん剤の副作用を改善することには有効だという。

「副作用がなく、最期まで元気に過ごせる意味はとても大きいです」

 ただし、保険適用ではないので、高額な医療費がかかる。高濃度ビタミンC点滴療法だけで1回2万~3万円、これを週1~2回受けることになる。