介護の現場

「自宅で面倒を見続けたら、私たち夫婦は破綻すると思いました」

 一日中、自宅のテレビ周辺をウロウロ。外を徘徊するような父ではなかったが、同居した娘夫婦に対する言葉はいつも高飛車だった。

「早く、ご飯を作れ!」
「風呂がぬるいぞ!」
「水持ってこい、早く、早く!」

 会社のトップだった時代の癖がとれないのか、常に命令口調で、しかも超わがままである。

 気の休まる暇がなく、父が隣に座っているだけで、石尾さん夫婦のストレスは頂点に達していた。

 嫌がる父を何とか説得して、デイケアセンターに通わせることにした。

 朝方、自宅にマイクロバスが迎えに来ると父親は、スーツに着替え、ネクタイを締めた。

「現役の頃は毎朝、会社の専用車が迎えに来ていたものですから、それと勘違いをしているのでしょう。右手に空のカバンを持ち、ネクタイは必要ないと言うと、激怒していました」(石尾さん)

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