医療数字のカラクリ

「余命6カ月」の本当の意味

 医師ががんの患者に対し、「余命6カ月です」などと説明する場合があります。今回はこの「余命6カ月」という説明について、これまで使ってきた指標を用いながらさまざまな角度から考えてみたいと思います。

 そもそもこの6カ月という数字は「平均値」なのか「中央値」なのか、それともそれ以外のものなのでしょうか。

 この値が平均値、中央値だったとしましょう。平均気温ぴったりの日なんてそうはないというのと同じように、余命6カ月と言われた患者の多くは、案外6カ月では死なず、2カ月だったり、10カ月だったりします。6カ月という数字が、信頼のおける優れた研究の結果であったとしても、単なる平均値、中央値を示すにすぎません。その現実からすれば、平均余命の数字は個々の患者にとっては、ほとんどあてにならない数字というふうに言えるかもしれません。もし、この6カ月が「90%の人が亡くなる90パーセンタイル」という数字だったらどうでしょう。

「余命は6カ月以内です」という説明は、宣告された患者の90%に当てはまることになります。単に個別の患者の予測の正しさということでいえば、「余命宣告」は平均値や中央値を使うより、90パーセンタイルを使った方が正しい説明ということになります。

 実際の医療現場では、余命6カ月という時、中央値である場合が多く、50%の人が亡くなる時点を示しています。逆に言えば半分の人は6カ月以上生きるわけで、この数字を聞いた時に、「半分の人は6カ月以上生きるんだ」というような前向きな解釈も可能なのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。