医療用語基礎知識

【診療報酬改定】製薬会社と中医協・厚労省が小競り合い

 奇数年のこの時期は、決まって医療費が政治の話題に上ります。翌年の2月までに、診療報酬を改定しなければならないからです。

 日本は原則として保険診療。保険証さえあれば、全国どの病院にかかっても、かなりお値打ちの診療が受けられます。その仕組みを支えているのが診療報酬制度。これは政府による、価格統制システムです。すべての医療行為や医薬品に対して、全国一律の定価が細かく付けられているのです。

 たとえば胸部レントゲン写真を撮影すると570円、その写真を見て診断を下すと850円といったように。これが診療報酬、つまり病院の収入になるわけです。

 ただし患者本人負担は3割のみ、残りは健康保険から病院に支払われます。診療報酬は、偶数年の4月1日に、物価や医療技術の発達、病気ごとの患者の増減なども考慮して、改定されることになっています。今年は2015年で奇数年ですから、来年は改定の年です。

 そのため遅くとも来年の2月までに、すべての項目の見直しを終わらせなければなりません。病院のシステムの作り直しなどで、最低1カ月は必要だからです。

 しかし実際には、見直し作業はこの時期から年末にかけてが正念場。それを話し合うのが、厚生労働省の中央社会保険医療協議会、略して中医協です。医療界、産業界、一般市民の代表によって組織されています。当然、医療界は報酬アップを要求しますし、医療費の負担を強いられている産業界は、もっと下げろと要求します。一般市民の代表は、やはり消費者の視点から判断する傾向が強いため、医療費が安くなることを望みます。もっとも、必要な医療まで切り捨てられては困るので、産業界とは一線を画しています。

 しかし実態はもっと複雑です。毎回、財務省から激しい横やりが入ります。日本の総医療費は約40兆円ですが、高齢者が増えたため、健康保険料だけでは到底賄いきれず、今やその半分近くを税金で補っているからです。

 また産業界、医療側とも一枚岩ではありません。製薬や医療機器業界は、自分に関わるところの点数を増やして欲しい。医療側も、外科や内科などの専門によって思惑が違ってきます。

 さらに各政党が選挙を意識してさまざまな要求を突き付けてきます。医療市場の開放を望む米国からの圧力もあります。だから医療の話にとどまらず、政治の話題として注目を集めるのです。

 今回もすでに先月から、製薬業界が海外の大手製薬会社などと組んで、中医協・厚労省との間で小競り合いを展開しています。国が決める医薬品の価格が安すぎると騒いでいるのです。さて、今回の決着はどうなることやら。
(医療ジャーナリスト・やなぎひさし)

やなぎひさし

やなぎひさし

国立大学理工学部卒。医療機器メーカーの勤務を経てフリーへ。医療コンサルタントとして、主に医療IT企業のマーケティング支援を行っている。中国の医療事情に詳しい。