医療用語基礎知識

【尿酸値】高いとがんになりにくい!?

 北朝鮮の指導者といえば「痛風」の噂が絶えません。例の足を引きずりながら歩く姿は、典型的な痛風患者そのもの。父親も痛風だったそうですから、遺伝的になりやすい家系なのかもしれません。

 さて、皆さんご承知のように痛風の激痛はハンパではありません。かく言う私も、不摂生がたたって、数年前に痛風発作に襲われました。右足の親指の付け根が炎症を起こし、その影響で足全体、さらには膝下付近まで腫れ上がり、立ち上がることすらままならなくなってしまいました。

 言うまでもなく、痛風の原因は血液中の尿酸です。これは体の新陳代謝で出てくるカスの一種。主に古い細胞のDNAが分解される際に生じる物質です。健康な人でも、ある程度は血液中に溶け込んでいます。その濃度が高くなると、何かの拍子に結晶化することがあるのです。重力の影響で、大抵は足の指の付け根か、人によってはくるぶしの関節に結晶が生じてしまいます。

 それだけでも痛いのに、この結晶を外敵の一種と誤解して、白血球やリンパ球が一斉に攻撃を仕掛けてきます。そのため激しい炎症が起こるのです。結晶は数日から1週間で溶けてなくなってしまい、それに伴って腫れも痛みもウソのように引いていきます。

 痛風発作を防ぐには、血中の尿酸値を下げる以外にありません。定期健診などで、毎年必ず測定しているはずです。基準値は男性で3・8~7・5、女性で2・4~5・8。単位はmg/dl(ミリグラム/デシリットル、1dlは100㏄)です。

 痛風というと、以前は中年以後の病気だったのですが、いまや20代、30代の患者も増えています。プリン体と呼ばれる栄養素の取りすぎが大きな原因。ビール、ホルモン、シシャモ、エビやカニなどに多く、要するに居酒屋系のものが総じて悪いわけです。そのためビール会社では、プリン体ゼロのアルコール飲料の開発に余念がありません。

 しかし尿酸値を下げ過ぎるのは、かえってマイナスかもしれません。あまり知られていませんが、尿酸には強い抗酸化作用があるからです。ビタミンC以上の効き目です。そのため昔から、痛風の人はがんにかかりにくいと言われてきました。

 本当は、痛風とがんは無関係ということが、現在の医学界の定説になっています。ところが近年、尿酸値が高いとアルツハイマー病にかかりにくい、という学説を唱える研究者が出てきました。尿酸が脳の神経組織の酸化を予防するというのです。

 この学説は、まだ真偽のほどが確かめられていません。本物のビールを心ゆくまで堪能するか、プリン体オフで我慢しておくか、悩ましいところです。(医療ジャーナリスト・やなぎひさし)

やなぎひさし

やなぎひさし

国立大学理工学部卒。医療機器メーカーの勤務を経てフリーへ。医療コンサルタントとして、主に医療IT企業のマーケティング支援を行っている。中国の医療事情に詳しい。