医療用語基礎知識

【直接死因と原死因】死亡診断書には複数の死因が書かれる場合がある

 がんに限らず、全国レベルで死因と死亡数・死亡率を集計したものを「死亡統計」と呼んでいます。厚労省が集計を行い、2年遅れで公表されます。いま最新の数字は2013年のものです。

 公表に時間がかかるのには理由があります。死因は、死亡診断書に基づいて集計されるからです。ご存じのように、人が亡くなると、医師が死亡診断書を書く決まりになっています。その際、医師は医学的判断に基づいて死因を記載するのですが、死亡診断書は通常は手書きですから、そこから死因を拾い上げ、デジタル化して集計するには、かなりの手間と時間を要するのです。

 ところで死亡診断書には、複数の死因が記載されることがあるのをご存じでしょうか。多い人では3つないし4つも書き込まれています。

 実は死因は、「直接死因」と「原死因」に分けて書くことになっています。たとえばインフルエンザをこじらせて、肺炎を発症して亡くなったとします。この場合、直接的な死因は肺炎です。しかし肺炎に至った原因はインフルエンザです。そこで直接死因として肺炎、原死因としてインフルエンザの両方を記載することになるのです。

 直接死因と原死因は一致する場合もあります。たとえば健康な人が何の前触れもなく、急性心筋梗塞で亡くなってしまうようなケースです。しかし、因果関係が2段階、3段階に分かれているケースもあります。大腸がんが肝臓に転移し、それがもとで食道に静脈瘤ができ、さらにそれが破裂して出血多量で亡くなった場合などです。

 心不全や多臓器不全なども、直接死因として記載されることがありますが、やはり死亡診断書には、その背後にあった病気を、経過が分かるような順序で書かなければなりません。心不全なら、それに至るまでに、狭心症や心肥大を起こしていたでしょうし、多臓器不全なら糖尿病による腎不全などがあって、それがもとで他の臓器もやられてしまったのかもしれません。

 そのため、死亡診断書の用紙は直接死因と原死因を含め、複数の傷病名を記載できるようになっています。

 有名人の訃報では、直接死因のみが公表されます。心不全や多臓器不全のほか、肺炎、呼吸不全、肝不全などがよく見受けられます。これでは、その人が肺がんだったのか、脳梗塞だったのか、アルツハイマー病だったのか、一切分かりません。

 しかし、死亡統計は原死因をもとに集計されています。先ほどの肺炎の例では、原死因であるインフルエンザが死因として数字に反映されます。また、静脈瘤による出血死では、大腸がんが原死因と考えられ、死亡統計にカウントされるのです。
(医療ジャーナリスト・やなぎひさし)

やなぎひさし

やなぎひさし

国立大学理工学部卒。医療機器メーカーの勤務を経てフリーへ。医療コンサルタントとして、主に医療IT企業のマーケティング支援を行っている。中国の医療事情に詳しい。