医療用語基礎知識

【増える老衰死】死因の5位だがピンピンコロリではない

日本人の死因のトップはがん。では老衰は?
「老衰」という言葉を聞くと、少しホッとする人も多いかと思います。これといった病気を患うこともなく、苦しまず、いわば天寿を全うして旅立っていくのですから。しかし、老衰とは本当にそういう穏やかな最期なのでしょうか。

 死因には「直接死因」と「原死因」の区別があります。肺がんで呼吸困難に陥り亡くなった場合、直接的な死因は呼吸不全などですが、原死因は肺がんとなります。死亡統計は原死因をもとに集計される規則になっているため、この場合、統計上は肺がん死としてカウントされます。

 厚生労働省が発行している「死亡診断書記載マニュアル」のなかには、老衰について次のように書かれています。

「死因としての老衰は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います」

 これだけを読むと、確かに老衰死は理想的な死に方のように感じられます。しかし、これといった病気がないから寝たきりや要介護とは無縁、というわけではありません。内閣府の「高齢社会白書」(平成26年版)によれば、要介護者の13・7%が「高齢による衰弱」、つまり老衰によって介護が必要になったと記されています。老衰だからピンピンコロリというわけではないということです。

 また、老衰が原死因と考えられる場合は、別の直接死因があったとしても、老衰死としてカウントされます。死亡診断書記載マニュアルには、たとえば老衰によって物を飲み込む力が弱り、誤嚥性肺炎を発症して亡くなった場合には、原死因として老衰を記入せよ、ということが書かれています。我々が思い描いている老衰死の印象と、かなりかけ離れているかもしれません。

 さて、それらのことを理解したうえで、死因における老衰の順位を見てみると、なんと第5位につけています。2013年の統計によれば、がん、心疾患、肺炎、脳血管疾患の次が老衰です。人数にして約7万人。死亡者全体の5・5%。死者18人に1人が老衰死という勘定になります。

 しかも、このところ老衰は着実に増加し続けているのです。1996年から2007年までは、ずっと死因の第7位にとどまっていたのですが、それが今や第5位。人数的にも割合的にも2倍以上という躍進ぶりです。このペースでいけば、2025年前後には脳血管疾患を抜いて、第4位に躍り出る勢いです。

「老化は病気」が最近の医学の大きな流れになってきていますが、それには統計上の老衰死が増えていることも影響しているのです。

 寝たきりや要介護にもならず、最期は苦しまず、本当の意味でピンピンコロリを実現しようというのが、究極の目的です。
(医療ジャーナリスト・やなぎひさし)

やなぎひさし

やなぎひさし

国立大学理工学部卒。医療機器メーカーの勤務を経てフリーへ。医療コンサルタントとして、主に医療IT企業のマーケティング支援を行っている。中国の医療事情に詳しい。