医療用語基礎知識

【がん患者数】地域によっては減少傾向へ

 保険会社のCMは、相変わらず「がんは日本人の死因の第1位」「2人に1人が一生に1回は必ずがんになる」と騒ぎ立てています。そのこと自体は正しいのですが、CMでは「がんが増えている」とは言っていないようです。本当はどうなっているのでしょうか。今回はそんな素朴な疑問に答えましょう。

 もちろん、がんにかかる人は増えています。医療の世界では、罹患者という言葉をよく使います。これは「新たにがんと診断された人」という意味です。新規がん患者などと呼ばれることもあります。

 罹患者数は年々増加しています。国立がん研究センターの統計によれば、2010年の1年間の罹患者数は、約80万5000人でした。1985年と比較して、約2・5倍に達したといいます。

 だからといって、今後とも増え続けるとは限りません。国立がん研究センターや政府が発表する公式統計では、現在も罹患者数が増え続けているのですが、都道府県別に見ると、必ずしも増えているわけではないのです。

 たとえば大阪府。府立成人病センターによれば、2006年ごろから罹患者数が頭打ちとなっています。全部位の合計で、06年が4万4302人、07年が4万7764人、08年が4万6425人、09年が4万4645人といった具合です。

 これは上皮内がんと呼ばれる、ごく初期のがんも含めた数字です。上皮内がんは転移することが少なく、本当にがんかどうか疑わしいため、「がんもどき」と呼んでいる医者もいるほどです。また内視鏡で簡単に取れるので、民間のがん保険でも別扱いにしているところが少なくありません。

 上皮内がんを除けば、大阪府の罹患者数は、00年以降3万4000~3万5000人ほどで横ばい、ないしやや減少傾向にあります。

 この間、がん検診が普及し、がんの診断技術も向上してきました。いままで見落とされていたがんが、より早く、より正確に発見できるようになってきたのです。また一般論として、がんのリスクは年齢とともに高まっていきます。日本全体で高齢化が着実に進んでいます。大阪府も例外ではありません。

 つまり、がんが発生しやすい条件と、発見しやすい条件が同時に満たされつつあるにもかかわらず、罹患者数が減っている、少なくとも増えていないという現象が生じているのです。

 これは大阪府に限った話ではありません。いまや全国的にがん患者が減りつつあるようなのです。滋賀県北部の農村地帯の中核病院でも、最近がん患者が減り始めているという話を聞きました。

 しかし、単に罹患者数の増減を議論するだけでは不十分です。より正確な比較のためには、罹患率と年齢調整罹患率という専門的な数字を見る必要があります。
(医療ジャーナリスト・やなぎひさし)

やなぎひさし

やなぎひさし

国立大学理工学部卒。医療機器メーカーの勤務を経てフリーへ。医療コンサルタントとして、主に医療IT企業のマーケティング支援を行っている。中国の医療事情に詳しい。