「肝心」という言葉があります。文字通り肝臓と心臓、人体になくてはならないもの、転じて非常に大切なことという意味です。
しかし、実は「肝腎」と書くのが正しいという説が有力です。もともとは漢方医学から出た言葉だそうです。漢方では肝臓と腎臓こそが命をつかさどる臓器。腎臓は心臓よりも大切と考えられていたのだとか。
ところが日本では、「腎」という文字が長らく常用漢字に入っていなかったため、新聞や教科書などでは広く「心」のほうが使われてきた経緯があります。
2010年の改定により、ようやく常用漢字に加えられたのですが、時すでに遅し。すでに「心」にその座を奪われていたため、いまさら「腎」を使ってくれるメディアはほとんどありません。
健診でも腎臓は目立たない存在です。肝臓のほうは、γ─GTPや肝炎ウイルスの抗体検査など、だれでも知っている項目が用意されています。心臓は心電図を取ってもらえます。
ところが腎臓ときたら、せいぜい尿検査。タンパク質や微量の血液が混じっているかどうかなど数項目を調べるのですが、正確な量までは測定しません。定性検査といって、陰性・疑陽性・陽性の3段階(項目によっては陽性がさらに2段階に分かれており4段階)に分類するところまでです。
腎臓や膀胱、尿路に病気がある可能性は指摘できますが、その種類や重症度などは、精密検査をしないとよく分かりません。
尿には他の病気や臓器が原因の物質も混じっています。代表的なものが尿糖、つまり糖分で、これが出てくるようなら、かなり進んだ糖尿病の可能性があります。またビリルビンという物質が陽性の場合は、肝臓に何か問題がありそうです。ビリルビンに限れば、尿は“肝腎”な検査ともいえるわけです。
腎臓関係ではもうひとつ、「血中クレアチニン」という項目が健診に含まれています。これは筋肉の活動で生じる老廃物の一種です。血液中に溶けて腎臓に運ばれ、尿に混じって排泄されます。
しかし腎機能が低下してくると、クレアチニンを効率よく排泄できなくなるため、結果として血液中の濃度が高くなってきます。基準値は男性で0・5~1・1mg/dl、女性で0・4~0・8mg/dl。これよりも高いと、腎臓に問題がある可能性があります。
ただし血中クレアチニンが本格的に上昇し始めたときには、すでに腎臓の機能が修復困難なまでに悪化しているケースも多いため、病気の予防や早期発見には、あまり役立たないといわれています。
腎機能の悪化をより早期に知るためには、「尿中クレアチニン濃度」を測定する必要があります。ただ検査には最低2時間程度、より正確な測定には24時間を要するため、健診では無理。心配なひとは、腎臓専門のクリニックや病院で受けてください。
(医療ジャーナリスト・やなぎひさし)
医療用語基礎知識