A、B、C、D、E……といったら肝炎ウイルスを思い浮かべる医療関係者が大勢います。
肝炎ウイルスには、発見された順番にアルファベットがつけられているからです。現在、分かっている肝炎ウイルスは5種類。ほかにF型とG型があるといわれていますが、はっきりと分かっていません。
A型は一過性の肝炎(急性肝炎)を発症します。治りがよく日本国内で感染することは、ほとんどありません。B型とC型の肝炎は慢性化しやすいことが知られています。D型は、B型患者にしか感染できない変わり種で、B型肝炎をより悪化させる可能性が指摘されています。E型はA型と同様、急性肝炎を引き起こしますが、やはり日本国内で感染することはまれです。
日本人にとって怖いのは、やはりB型とC型です。感染すると急性肝炎を発症し、治らずにそのまま慢性肝炎に移行してしまう場合が多いからです。急性肝炎の症状がほとんど出ないまま慢性肝炎になってしまう人も大勢います。慢性患者数は、B型、C型それぞれ300万人から350万人ほどと推定されています。
肝炎が慢性化すると、肝臓がじわじわと侵され、20~30年以上かけて、肝硬変や肝がんに移行していきます。日本人の肝がんの、実に8割がC型によるもの、残り2割の大半がB型によるものといわれているほどです。幸いなことに、B型はワクチンで感染を防ぐことができます。そのため医療関係者などは、必ずB型ワクチンを打っています。しかしC型に有効なワクチンは、まだできていません。
それでもインターフェロンをはじめ、有力な治療法が開発されたおかげで、早めに治療を開始すれば、肝硬変や肝がんをかなりの程度防げるようになってきました。肝炎ウイルスの早期発見の重要性が増してきているわけです。
肝炎ウイルス検査は定期健診の項目に入っており、希望者に対して行われます。B型、C型ウイルスに対する抗体の有無を血液検査で調べます。
ただ、その結果だけでは慢性肝炎を発症しているかどうかまでは分かりません。
というのも、抗体は過去に感染したことのある全員が持っており、体内からウイルスが完全に排除されたとしても、抗体だけはずっと残り続けるからです。B型ワクチンを打った人も、感染の有無にかかわらず、B型ウイルスに対する抗体を持っています。
本当にウイルスが体内にいるかどうかは、ウイルス遺伝子検査を受けなければ分かりません。B型、C型ウイルスに特有の遺伝子が検出されれば、それぞれのウイルスが陽性、つまり感染が続いていると判定されるのです。
(医療ジャーナリスト・やなぎひさし)
医療用語基礎知識