「青春18きっぷ」をご存じでしょうか。JRの普通列車が終日乗り放題。春、夏、冬に使えて、今年の春は3月1日から4月10日までが有効期間です。「青春」と銘打っていますが、利用者の大半が中高年であるところが、いまの高齢者の健康ぶりをよく反映しています。
シーズン中は、行楽地に向かう朝の列車に、元気なご老人が大勢乗ってきます。その話し声や笑い声が若者たちと比べて一段と大きいため、車内が一気ににぎやかになります。いまやシーズン中の風物詩のひとつ、といったところでしょう。
高齢者が大きな声で話すのには、それなりの理由があります。耳が聞こえにくくなっているのです。
耳は、加齢とともに聞こえにくくなるもの。個人差はありますが、誰もが避けては通れない宿命です。日常会話に支障をきたすようになると、「老人性難聴」という立派な病名がつきますが、それより手前は、単に「耳が遠くなった」と言われておしまい。病名がついても、補聴器は健康保険の適用外。自腹で買うしかありません。
聴覚には、音域(可聴域)と音量があります。
まず音域。ひとの耳は、下が20ヘルツ(Hz)から、上が2万ヘルツまで聞き取れるといわれています。しかし、50歳前後から老化が始まり、まず高音が、そして次第に低音も聞こえなくなっていきます。
健診では、ヘッドホンをつけて、流れてくる音が聞こえているかどうかを答えます。1000ヘルツの音と、4000ヘルツの音が流れてきます。1000ヘルツは、ソプラノ歌手の最高音あたり。4000ヘルツはピアノの最高音と同じくらい。かなり老化が進んでも、聞こえる音域ではあります。
動画投稿サイトのYouTubeには、さまざまな周波数の音のサンプルが集められています。「1000Hz」「4000Hz」などの検索ワードで探してみてください。ちなみに私は、下が70ヘルツ、上が1万5000ヘルツまで聞き取れました。ヘッドホンやスピーカーの性能にもよりますので、あくまでも参考程度と思って、遊び感覚で試すといいでしょう。
音量も大切です。健診では、まず20~40デシベルと、小声の会話レベルの音量で流します。それで聞こえれば、問題なし。聞こえなければ、音量を上げていくわけです。40~54デシベルで日常会話に支障が出てくるレベルとされています。「青春18きっぷ」のご老人たちは、おそらく40~50デシベル程度、お互いの会話が少し聞き取りにくいレベルと思われます。ちなみに70デシベル以上を要すると聴覚障害者の仲間入り(6級)です。そして両耳が100デシベルでも聞こえないと、全聾と判定され、障害者2級に認定されるのです。
(医療ジャーナリスト・やなぎひさし)
医療用語基礎知識