医療用語基礎知識

【ヘマトクリット】出血の有無とその量が推定できる

 米国の人気テレビドラマ、「ER」や「グレイズ・アナトミー」のファンなら、ヘマトクリットという言葉を、必ず耳にしているはずです。日本の医療ドラマでも、ヘマトという言葉がよく飛び交っています。手元の健診結果を見返してみると、貧血検査の欄にも、ヘマトクリットという項目が入っているではありませんか。いったい何なのでしょうか。

 健診の貧血検査で測定されるのは、赤血球数、ヘモグロビン量(血色素)、そしてヘマトクリットの3項目です。

 赤血球数は、文字通り血液中に含まれる赤血球の数。ヘモグロビンは、赤血球中に含まれる、酸素運搬を担うタンパク質。そしてヘマトクリットは、血液全体に占める赤血球の体積のことで、パーセントで表記します。基準値は男性40~52%、女性35~47%。たとえばヘマトクリットの値が50なら、血液100㏄のうち、50㏄分が赤血球で占められているという意味です。

 医療ドラマでは、出血多量の救急患者に対して、よくヘマトクリットの測定がオーダーされています。出血によって赤血球が失われれば、必ずヘマトクリットの値が下がるので、まず出血の有無が分かります。さらにその数字から、おおよその出血量も分かるからです。

 ヘマトクリットは、貧血状態を判定するための重要な指標なのですが、まったく緊急性を伴わない定期健診でも測定するのは、なぜでしょうか。

 もちろん、その値が高ければ、血が濃いわけですから、多血症。逆に値が低ければ、血が薄いのですから貧血ということが分かります。多血も貧血も赤血球数とヘモグロビン量のみでも診断できますが、ヘマトクリットを測定することによって、より確かになるのです。

 しかしそれだけでなく、貧血の種類の特定にも役立っています。赤血球数、ヘモグロビン量とヘマトクリットの値をある公式に当てはめると、赤血球恒数という数字が算出されます。その値によって、再生不良性貧血や腎性貧血と呼ばれる、厄介な病気の可能性が示唆されるのです。

 再生不良性貧血とは、赤血球、白血球、血小板のすべてが減少する病気で、国の難病指定を受けています。単に貧血だけでなく、感染症にかかりやすくなったり、鼻や口の粘膜から出血しやすくなったりもします。

 腎性貧血は、腎臓から分泌される、赤血球の生産を促すホルモンが不足することで生じる貧血です。動悸・息切れなどがあり、重症化すると腎不全に至ります。治療には、不足したホルモンを、薬によって補う必要があります。

 ヘマトクリットは、単に高い・低いだけが問題なのではなく、他の2項目との組み合わせによって得られる数字も重要ということです。
(医療ジャーナリスト・やなぎひさし)

やなぎひさし

やなぎひさし

国立大学理工学部卒。医療機器メーカーの勤務を経てフリーへ。医療コンサルタントとして、主に医療IT企業のマーケティング支援を行っている。中国の医療事情に詳しい。