医療数字のカラクリ

ステージⅢの進行胃がんの告知と85歳の誕生日

「平均寿命」というのは、0歳の人がどれくらい生きるかを示す指標です。それに対し「平均余命」という指標があります。これは、たとえば50歳の人が残り平均何年生きるかを示したもので、2013年のデータでは31・92歳となっており、50歳の人は平均81・92歳まで生きるということです。

 平均寿命だけでなく、平均余命を眺めてみると、さらにさまざまなことがわかります。たとえば85歳の男性の平均余命を見てみましょう。6・12歳とあります。85歳の男性は平均91・12歳まで生きるということです。別の見方をすれば、91歳くらいまでには半分の人が亡くなるということでもあります。6年生存率が50%というわけです。

 これに対して、進行がんの人の生存率を見てみましょう。たとえばステージⅢ、つまり遠隔転移はない進行した胃がんの5年生存率は40~50%です。つまり、85歳の誕生日を迎えるということは、進行胃がんの宣告を受けたくらいの平均余命か、それより少し長いくらいの寿命だというわけです。

 多くの人は85歳の誕生日をお祝いしたりするわけですが、進行胃がんを宣告されてそれを祝う人はいないでしょう。しかし平均余命で見ると、85歳の誕生日と進行胃がんの宣告はとてもよく似ているのです。進行がんの宣告を受けた人も、遠隔転移がないのであれば、それは85歳の誕生日を迎えたくらいのことなのです。そう考えると、進行がんとの付き合い方も少し変わるのではないでしょうか。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。