医療数字のカラクリ

食事・運動療法は無理せず長く続けることが大事

 薬のことばかり取り上げてきましたが、糖尿病の治療はまず食事・運動です。すべての糖尿病患者に食事・運動療法が勧められます。薬の治療は一部にすぎず、薬で治るわけではありません。今回は糖尿病の食事・運動療法についての意外な研究結果をお示ししましょう。

 この研究は肥満のある糖尿病患者を対象として、週1回の個別のプログラムによる集中的な食事・運動療法を行うグループと、年3回のグループを比較して、心筋梗塞や脳卒中の発症率を比べています。その結果は意外なものでした。

 集中的な支援をするグループとそうでないグループで、それぞれの合併症の発症率は年率1・83%と1・92%と、両群でほとんど同じという結果です。研究開始直後には、集中的な治療を行うグループの方が、体重が減り、HbA1cの値も大きく改善します。しかし、その差は徐々に縮まり、5年、10年の単位ではほとんど同じとなり、合併症の発症率もどちらも年率2%弱なのです。

 この研究では、どちらの群も食事・運動療法の指導を行っており、食事・運動療法に意味がないという結果ではありません。「集中的な介入の効果がはっきりしない」という結果です。

 薬物による血糖治療と同様、厳しい食事・運動療法と、緩めの食事・運動療法の間にはっきりした差はありません。無理して食事・運動をがんばっても、長続きしなければ十分な効果は期待できません。緩めでも長続きするやり方がより現実的な方法かもしれないのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。