医療数字のカラクリ

糖尿病患者がアスピリンを使う効果と副作用

 血液をサラサラにしてくれる薬として広く使われているアスピリンですが、糖尿病患者に対する効果はどうなのでしょう。その前に、そもそもアスピリンが「血液をサラサラにする薬」というのは誰が言い始めたのでしょうか。あまり正確な表現とはいえません。アスピリンは血小板に作用して血液を固まりにくくする薬です。血を固まりにくくする作用があるので、出血しやすくなるという副作用が避けられません。治療効果を期待する半面、脳出血が増えたり、胃潰瘍からの出血が増えたりする副作用が、その効果を上回っていないか、きちんと吟味する必要があります。

 これまで脳梗塞や心筋梗塞を起こしたことがある人の再発予防に関しては、再発予防効果が出血の害を上回ることが示されています。逆に、これまで何も病気がないような元気な人では、予防効果より害の方が上回る可能性が指摘されているのです。

 糖尿病の患者さんはその間にあり、果たしてアスピリンの予防効果が副作用を上回るかどうか、きちんと検討する必要があります。

 そうした状況に対して、日本人の糖尿病患者でアスピリンによる心筋梗塞、脳梗塞の予防効果をみる研究結果が、2008年に報告されています。それによると、心筋梗塞、脳梗塞の発症率はアスピリン群で年率1・7%、アスピリンなし群で1・4%と、予防効果は明らかでなく、重大な出血はアスピリン群で多い傾向にありました。

 糖尿病患者であっても全員がアスピリンを飲んだほうがいいとは言えないのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。