医療数字のカラクリ

DPP4阻害薬の効果 ニセ薬と比較して差がないから安全ってなに?

 糖尿病の飲み薬で今、最も売れているのは、DPP4阻害薬という薬です。「ジャヌビア」「オングリザ」「ネシーナ」「エクア」などさまざまな名前の薬があり、とても覚え切れません。

 こんなに似たような薬を何種類も出す必要なんかないわけですが、糖尿病はたくさんの患者がいるので、多くの種類があって競合しても、それなりに売れてそこそこ採算が取れる。メーカーにとってはいい薬であるわけです。

 このDPP4阻害薬の効果について検討した研究があります。私には計画の段階で意味が分からない研究です。というのも、これまでの治療にDPP4阻害薬を追加し、偽薬であるプラセボと比較して差がないことを検討した研究なのです。

 1錠何百円もする薬がニセ薬と同等の効果であることを検討する研究というのが、倫理的に許容されるというだけでびっくりです。

 さらに、その結果と世の中への伝わり方も驚くべきものです。脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患については、DPP4阻害薬で治療した群で7・3%、プラセボ群で7・2%、相対危険は1と、当初の予想通り差がないという結果です。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。