医療数字のカラクリ

インスリンはがんを増やす!?

 糖尿病患者でがんが多いという事実は、糖尿病そのものによるものと、糖尿病で使われる薬によるものの両方の可能性があります。今回は、薬の種類によって糖尿病とがんの関係がどう異なるかについて検討した研究を紹介しましょう。

 この研究では、6万人以上の糖尿病患者さんを、「メトホルミンのみで治療」「スルフォニル尿素のみで治療」「両者で治療」「インスリンで治療」の4つのグループに分けて、がんとの関係を見ています。

 その結果は、メトホルミンのみで治療をしたグループでがんが最も少なく、スルフォニル尿素で治療をしたグループではその1・36倍、メトホルミンとスルフォニル尿素の両方で治療したグループで1・08倍、インスリンで治療したグループで1・42倍、がんが多いというものでした。

 合併症予防の点でも他の治療に勝るメトホルミンが、ここでもがんが少ないという、いい結果です。合併症を予防し、がんが少なく、値段が安いというわけですから、まずメトホルミンを使うのが第一ということは、ここでも示されています。

 それでは、スルフォニル尿素やインスリンを使ったグループでがんが多いのはなぜでしょう。これはやはりインスリンそのものにがんを増やす作用があるのかもしれません。というのもスルフォニル尿素も膵臓を刺激してインスリンを多く出す薬ですから、インスリンを多く使うのと同じような効果があります。これに対して、メトホルミンはインスリンの効きをよくする薬で、少ないインスリンを効率よく使うためにインスリンが高くならず、他の治療に比べてがんが少ないのかもしれないのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。