医療数字のカラクリ

4つのがんでリスクあり

 糖尿病の患者さんで、心筋梗塞や脳卒中などの血管が詰まる合併症が多いことは広く知られています。しかしそれだけでなく、糖尿病はがんとも関連している事実が従来から繰り返し話題になっています。さらに糖尿病の厳しい治療による死亡の増加が、がんの増加によってもたらされている可能性があるわけです。

 ただこの関連は、必ずしも糖尿病が「原因」でがんが「結果」であると明確になっているわけではありません。糖尿病の患者さんは定期的に医療機関を受診します。糖尿病と直接関係なく、単に医療機関を受診する回数が多いためにがんが見つかりやすいだけかもしれないのです。その半面、高血糖やインスリン自体に発がん性があることを示した研究もあり、結論は必ずしも明確ではないのです。

 そこへ昨年、これまでの研究を網羅して検討した論文がイギリス医師会雑誌に掲載されました。その報告によれば、乳がん、胆管細胞がん、大腸がん、子宮内膜がんの4つについて、糖尿病の患者さんで危険が高いことが示されています。

 乳がんについては糖尿病がない人に比べて1・2倍ほどがんになる危険とがんによる死亡リスクが高く、胆管細胞がんは1・97倍かかりやすく、大腸がんでは1・27倍なりやすく、1・2倍死ぬ危険が高いという結果です。子宮内膜がんについてはそれぞれ1・97倍かかりやすく、1・23倍死ぬ危険が高いとなっています。

 糖尿病の患者さんのがんの増加原因に関しては、糖尿病そのものが原因になっているというだけでなく、糖尿病で使われる薬との関係も疑われています。この点からいっても、あまりに厳しい血糖治療は、いい面ばかりではないかもしれないのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。