医療数字のカラクリ

糖尿病の薬で寿命が延びないワケ

薬で厳しく糖尿病治療をしても寿命を延ばす効果がない、あるいは寿命を短くするかもしれないことが、多くの研究で示されています。なぜそんなことになるのでしょう。

 ひとつは低血糖です。人の生命活動のエネルギー源である、血液中のブドウ糖の量が減る状態を低血糖といいます。異常な空腹感の後に動悸・震えの症状が出たり、ひどいと中枢神経の働きが低下。昏睡状態から死に至ることもあります。

 薬による厳しい糖尿病治療は深刻な低血糖を2~3倍増加させることが複数の研究により示されています。

 低血糖は糖分を補給しないと死につながる怖い副作用です。薬で血糖を下げることによる寿命延長の効果を副作用である低血糖が相殺してしまったり、逆に死亡を増やしたりしているのかもしれません。

 しかし、ACCODO研究(HbA1c6%という正常値を目指して厳しい治療をしたグループで20%死亡が増加した)では、重症の低血糖によって死亡が増えたとは説明できないとの結果でした。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。