医療数字のカラクリ

薬の追加は逆効果 死亡率が跳ね上がった

インスリンの効果を促進するメトグルコの合併症予防効果を明らかにしたUKPDS33(英国前向き糖尿病研究33)では、もうひとつ別の検討がなされています。

 最初に「スルフォニル」尿素(商品名ダオニール、アベマイド)という血糖を下げる薬で治療された患者のうち、十分な効果が表れなかっ
た患者さんに、メトグルコを追加すると合併症はどうなるかをみたものです。

 その結果は意外なものでした。糖尿病に関連した死亡は、積極的な薬の治療を行わないか、スルフォニル尿素だけを使ったグループで年率0・86%。一方、メトグルコ追加群では年率1・68%でした。追加群は相対危険で1・96倍多く、死亡全体でも1・6倍多いという結果だったのです。

 つまり、メトグルコの追加は効果があるどころか有害で、メトグルコは第1選択として使った場合にのみ効果があるというわけです。

 ただし、この解釈には難しい点があります。後からメトグルコを追加した対象者は年齢が高かったり、肥満度の程度が軽かったりしています。その点、メトグルコ治療のみの対象者グループと異なっています。ですから、高齢者や肥満がない人でのメトグルコの効果は小さいといえるかもしれないのです。

 とはいえ、それもまた仮説の域を出ず、結論を出すためにはまだ次の研究が必要な状況です。

 少なくとも、高齢でなく、肥満のある糖尿病患者に対して、メトグルコは真っ先に使うべき薬で、スルフォニル尿素のような別の薬を先に使って、後から追加することは勧められません。ここでもメトグルコを第1選択にすべきであるという結果なのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。