医療数字のカラクリ

糖尿病の合併症リスクを減らす薬の飲み方

UKPDS33(英国前向き糖尿病研究33)で糖尿病合併症の予防効果を示した「メトグルコ」という薬について、その使い方をもう少し細かく見ていきましょう。

 研究では、最初に850ミリグラムという量を朝、糖尿病の患者さんに投与することからスタートしました。それで十分な効果が得られなければ朝夕に850ミリグラムずつの計1700ミリグラムに増量。それでもだめなら、朝に1700ミリグラム、夕に850ミリグラムの計2550ミリグラムを使うという方法です。

 日本で処方されるメトグルコは250ミリグラムと500ミリグラムの2種類です。英国の研究に準じて使うと、まず朝250ミリグラムと500ミリグラムを1錠ずつの計750ミリグラムで始め、それで十分な効果が出なければ750ミリグラムを夕に追加。それでもだめなら朝は250ミリグラムと500ミリグラムをそれぞれ2錠ずつと夕に750ミリグラムの計2250ミリグラムにするという使い方になります。

 UKPDS33の参加者の平均は体重86キロ、BMI31というかなりの肥満です。それより肥満度の低い、体格の小さな日本人では、このままの処方では少し薬が多すぎるかもしれません。

 そこで私は、体重が50~60キロの平均的な日本の患者さんに対しては、まず500ミリグラム朝1回で始め、次にそれを朝夕2回の1000ミリグラムで、さらにダメなら、朝1000ミリグラム、夕500ミリグラムか朝昼夕に500ミリグラムずつの計1500ミリグラムのどちらかにしています。ただし、日本人であっても体重が100キロ近い人では750ミリグラムを3回、あるいは1500ミリグラムと750ミリグラムの2回という処方を使うこともあります。

 ある患者が、こうした処方を他の医者に見せたところ、“こんな使い方は見たことない”と言われたと話してくれました。しかし、メトグルコ単剤の処方こそ、最も合併症予防効果が明らかな治療法なのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。