医療数字のカラクリ

「薬で糖尿病の合併症が減る」の根拠

 それを数字で見ていきましょう。

 調査の対象となったのは空腹時血糖値が270㎎/dlを超えない限りは積極的に薬の治療を行わないグループです。そのグループで年率4・33%発症していた糖尿病合併症が、メトホルミンを使うことで年率2・98%に減ったというのです。

 これを前回紹介した割り算の指標である相対危険でいうと0・68です。つまり、100の合併症が治療により68まで減る、32%減少するということです。

 引き算の指標、絶対危険減少では1・35%、治療必要数では75人となります。つまり、75人に1年間メトホルミン治療をすると1人は合併症を予防できるというわけです。

 UKPDS33ではメトホルミン以外の治療では、インスリンとインスリンの分泌を刺激するスルホニル尿素という薬が使われていますが、この治療での合併症の減少は示されませんでした。

 UKPDS33で示された合併症予防効果の大部分は、このメトホルミンによって得られたものなのです。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。