医療数字のカラクリ

「相対的に合併症が減った」という指標の意味

UKPDS33(英国前向き糖尿病研究33)では、糖尿病の全合併症が年率4・6%から4・1%に減ったという結果でした。

 この2つの数字からさまざまな治療効果の指標が計算されます。

 まず割り算をしてみます。4・1%÷4・6%=0・89となります。この割り算の指標を相対危険といいます。対照治療を基準にして、相対的に合併症がどれだけ減ったかを示した指標という意味です。対照群で起こる100の合併症が治療群では89に減るというわけです。

 さらにこの相対危険を1から引いたものを相対危険減少と呼びます。相対危険の減少分がどれくらいかというわけです。すなわち1-0・89=0・11、つまり11%合併症が減ったというのです。

 それでは今度は引き算してみましょう。4・6%-4・1%=0・5%となります。この0・5%を絶対危険減少といいます。割り算の指標では、合併症は11%減るということになるのですが、引き算の指標では0・5%減るに過ぎないということになります。

 さらにこの0・5%を逆数にすると200となりますが、これは治療必要数という指標で、200人厳しく治療すると、治療のおかげで1人の合併症が予防できるという指標になります。

 相対危険減少で11%合併症が減るというのでも治療効果が怪しいと感じる人もいるでしょう。しかし、それはどちらかというと治療効果を大きく見せる指標なのです。

 絶対危険減少では0・5%減るに過ぎない、治療必要数では200人治療しないと1人の合併症を予防できないとなります。

 そうなるととても有効な治療とは思えないのではないでしょうか。

 治療効果を表す指標によって治療効果に対する印象が変わってしまいます。自分が見ている指標が割り算によるものなのか、引き算によるものなのか、よく吟味する必要があるわけです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。