役に立つオモシロ医学論文

満月の夜は寝つきが悪く睡眠が浅い?

(C)日刊ゲンダイ

 一部の海洋生物では、概月リズム、すなわち「月の満ち欠け」に応じた約30日サイクルの周期に従って行動することがあるといいます。海洋生物の産卵時期と大潮の関係などは、この概月リズムに従っていると考えられているそうです。

 一方、人間においては、その行動と月の満ち欠けのサイクルには、あまり一貫性は感じません。少なくとも月の満ち欠けのサイクルに生活が制限されるような感覚は、あまりないと思います。

 しかしながら、「睡眠の主観的、客観的尺度が概月リズムを反映しているかもしれない」との仮説もあります。それを検証した実験報告が、生物学の学術誌「カレントバイオロジー」2013年8月5日号に掲載されました。

 睡眠障害や精神科の通院がない17人の若年健常ボランティア(平均25歳、女性9人)および、16人の中高年ボランティア(平均65歳、女性8人)が研究に参加し、睡眠状況や睡眠中の脳波を測定されました。被験者は3・5日間、月が見えない研究室に滞在し、8時間睡眠をとるよう指示されました。なお、過度のアルコールやカフェインは摂取しないよう説明を受けています。

 その結果、満月の日近辺では、睡眠までにかかる時間が5分間延長し、睡眠時間が20分短縮。さらに、深い睡眠が30%減少しました。また、睡眠に関わるホルモンであるメラトニンの減少も認められました。

 この研究は月の満ち欠けリズムと、睡眠時間や入眠時間などの関連性を疫学的に研究したものではなく、その因果関係を決定的にするような示唆ではない点に注意が必要です。

 しかし、月の満ち欠けのサイクルが、ヒトにおける睡眠構造を調節する可能性を示した興味深い研究といえそうです。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。