医療数字のカラクリ

厳格コントロールだと低血糖が増える

糖尿病患者さんの入院のうち、血糖が上がり過ぎることによる入院と、下がり過ぎることによる入院では、どちらが多いと思いますか。あるいは、血糖の上がり過ぎと下がり過ぎでは、どちらが緊急を要する事態でしょうか。

 糖尿病は血糖が上がり過ぎる病気ですから、高血糖の入院の方が多く、対処もそちらの方が急を要すると思われるかもしれません。

 しかし、実際はその逆です。高血糖による入院より、低血糖による入院の方がはるかに多いのが現実です。しかも、緊急な対処が必
要なのも低血糖の方なのです。

 低血糖の症状には、動悸、冷や汗、ボーッとする、強い空腹感、悪夢などがあります。低血糖はブドウ糖の補給を行わないと危険な急を要する状態です。高血糖だけでなく、低血糖にも十分注意を払うことが重要です。

 UKPDS33(英国前向き糖尿病研究33)において、死亡例は、高血糖では血糖コントロールが緩い治療群1138人のうち1人、低血糖では厳しい治療群2729人中1人に認められたにすぎません。

 しかし、重症の低血糖については、緩い治療群では8人(0・7%)に対し、厳しい治療をした群のうち、飲み薬を使ったグループでは1・0~1・4%、インスリンを使ったグループでは1・8%でした。つまり、厳しい治療グループの方が多いという結果です。すべての低血糖で
見てみると、緩い治療群で10%に対し、飲み薬を使用した群で16~21%、インスリン使用群では28%にも上りました。

 さらに低血糖時には、脈拍数が上昇するなど心臓に対する影響もあり、心筋梗塞などの合併症が増えることが最近指摘されています。UKPDS33で血糖コントロールをしても、心臓合併症が減らなかった背景には、低血糖が多かったことも関連しているのかもしれません。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。