医療数字のカラクリ

血糖コントロールは緩くてもいい

 先週ご紹介したUKPDS33(「英国前向き糖尿病研究33」)をもう少し詳しく見てみましょう。この研究は血糖正常化を目指して厳しく血糖コントロールを目指すグループと、それほど厳しくコントロールしないグループが比較されていて、治療を全くしないグループとは比較されていません。糖尿病は放っておいても大丈夫、という結果ではないわけです。

 実際には、厳しくコントロールするグループでのHbA1c(血糖の平均値を表す指標、6・5%以上が糖尿病)は7%、緩いコントロールの方は7・9%でした。7・9%の緩いコントロールでは100人に合併症が起きるところ7%まで厳しく治療をすると88人まで減るという内容です。

 では、緩いコントロールでHbA1cが8%くらいの人は、1年後に何パーセントくらいが合併症を起こしているのでしょうか。実は4・6%に過ぎません。

 それに対してHbA1cが7%のコントロールのグループでは4・1%です。年率4・6%の合併症が4・1%まで減るという結果です。

 この研究は平均11年の追跡が行われています。合併症は、ほぼ時間に比例して発症しているため、10年後の発生率はそれぞれ46%と41%くらいです。「HbA1cを8%のまま放っておいたら合併症が起きてしまいますよ」なんて医者は言います。ただ、7%まで下げればちょっとは減りますが、8%のまま放っておいたらひどいことになるというわけではないのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。