医療数字のカラクリ

「100の合併症が88に減る」は厳しい治療に見合うものなのか

 1995年の熊本研究に続いて、98年に新たな糖尿病の研究報告が行われました。血糖を集中的に下げて、糖尿病の合併症全体をどれほど予防できるかを検討したランダム化比較試験で、イギリスから報告されました。

 これはUKPDS33と呼ばれる研究です。日本語にすると「英国前向き糖尿病研究」という感じでしょうか。

 33というのは、このUKPDS研究が発表した33個目の報告という意味です。

 この結果を大ざっぱに表現すれば、「糖尿病患者の血糖を集中的にコントロールすると、糖尿病の合併症全体が予防できる」というものでした。「予防できる」と聞くと、合併症が“半分くらいには減る”、あるいは“ほとんど起きなくなる”と感じられる人もおられるだろうと思います。

 実際はそうではなくて、研究で示された数字は、100ある糖尿病のすべての合併症が88に減るというものでした。

 ひとによっては凄い、と感じるかもしれませんし、逆に、予防できるという結果には程遠い、と感じる患者さんもいるかもしれません。

 しかし、医師にとっては、単に偶然によってもたらされたものよりも明らかに大きい違いを示しているのだから、「統計学的に有意差のある結果」であり、効果があると判断できるのです。

 しかも、このUKPDS33は、目や腎臓の合併症に加え、心筋梗塞や脳卒中を含めた合併症予防効果を初めて明らかにしたとされる研究です。

 そのこともあって、多くの医師はこの研究結果をもって、糖尿病の血糖を厳しく下げることが重要だと言っているわけです。

 しかし、患者さんにとって100の合併症が88に減るということが、食事制限をして運動療法を行い薬を飲むなど、日々厳しい糖尿病の治療に見合うものなのかどうか、よく考えてみる必要がありそうです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。