Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

【北斗晶さんのケース(1)】マンモが見落とす進行速いタイプが2割

セルフチェックとパートナーの触診が大事
セルフチェックとパートナーの触診が大事(C)日刊ゲンダイ

「ごめんね。私の右胸に……。そんな気持ちでした。もっと早く気づいてあげられなくてごめんね」

 乳がんで右胸を全摘されたタレント・北斗晶さん(48)は、ブログで術後に初めて自分の胸を見た感想をこのように記しています。術後8日目のこと。「違う形の胸を見たらパニックになるだろう」と見るのをためらっていたそうですが、新しい自分を受け入れて再出発するため、夫の佐々木健介さん(49)と一緒に見られたそうです。

 とても前向きな行動ですが、「もっと早く気づいてあげられなくて」というところに悔しさが感じられます。それも当然でしょう。

 北斗さんは毎年秋、乳がん検診として、マンモグラフィーとエコー検査を受けていたようです。昨秋は、異常なし。ところが、今年になってから時々、異変を感じていたことがブログに書かれています。

〈うつ伏せで転がったとき、胸が圧迫されてチクッとした痛みを感じた〉

〈ホテルで裸になった自分の体を見たら、右の乳頭がセンターになく、引きつって見えた〉

 ところが、最初のケースでは、毎年検査を受けている「安心感から、圧迫の痛みとしか思えない」とがんを疑うことがなく、次のケースでは「直視しても異変がなく、触ってもシコリがなく、年齢のせい」と考えていたと振り返っています。

 今年の初夏のころ、「乳頭にチリチリした痛み」を感じたのがキッカケで、かかりつけの婦人科を受診。組織検査などで最終的に7月7日に告知を受けたのが乳がん発見までの経緯です。

 厚労省は04年、40歳以上にマンモグラフィーを勧める指針を出し、ほぼ100%の自治体に普及。乳がん撲滅のピンクリボン運動も相まって、マンモグラフィーの認知度も向上しています。しかし、マンモグラフィーが万能ではないことを、北斗さんのケースは示しているのです。

 乳がんは、乳房を温存できるような進行が遅い穏やかなタイプがある一方、進行が速く悪性度の高いタイプもあります。北斗さんは年明けに最初の症状を自覚していますから、秋の検査からおよそ3~4カ月でがんができていたようです。

 ですから、マンモグラフィーが陰性でも、日ごろからのセルフチェックが欠かせません。「検査したから大丈夫」という安心感を持ち過ぎるのも危険です。穏やかなタイプと悪性度が高く進行が速いタイプの頻度はおよそ4対1。およそ2割の進み方が速いタイプを想定して、セルフチェックをしておくことが大切です。

 それが、自分による触診と視診。もちろん、これも万全ではありませんが、パートナーによる触診がキッカケで発見されるケースも少なからずあります。マンモグラフィーを過信せず、ぜひセルフチェックも心掛けてください。

中川恵一・東大医学部付属病院放射線科准教授

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。