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【腫瘍IVR】 国立がん研究センター 中央病院・IVRセンター(東京・築地)

国立がん研究センターの荒井保明センター長
国立がん研究センターの荒井保明センター長(C)日刊ゲンダイ

「IVR」(インターベンショナル・ラジオロジー)とは、X線やCTなどの画像で体の中を透かして見ながら、カテーテルや針を使って行う治療法の総称。「画像下治療」とも呼ばれ、心臓や脳の血管内治療なども含まれる。体を大きく切開しないので、侵襲が非常に少ないのが最大のメリットだ。

 がんに対する腫瘍IVRを年間4000件以上実施している同院は、昨年12月にIVRセンターを開設した。病院長でもある荒井保明センター長(顔写真)は「腫瘍IVRでできる治療は、大きく2つに分けられる」と話す。

「ひとつは、肝がんに対する動脈化学塞栓術やラジオ波凝固療法、腎がんに対する凍結治療など、がん自体に対する局所治療。もうひとつが、症状や苦痛を緩和する治療です。IVRによる緩和治療は医療者でもまだ知らない人も多く、緩和IVRの普及にも力を入れて取り組んでいます」

 IVR発祥の米国や欧州でも緩和IVRはあまり行われておらず、国内でもさまざまな緩和IVRをすべて実施している医療機関は10施設にも満たない。年間1500件以上にのぼる同センターの緩和IVR件数は、世界をリードする数字だ。

 では、具体的にどんなケースで行われるのか。

「たとえば、がん性腹膜炎などおなかに水がたまる難治性腹水に対するシャント術です。IVRで体内にチューブを埋め込み、心臓近くの静脈に腹水を戻すことで腹水がたまらなくなります。また、骨転移で骨が弱くなり、痛みで動けないような場合には、病巣部に樹脂を注入します。即効性があり、翌日には歩けるようになる患者さんもいます」

 がんに潰されて内側のスペースがなくなってしまった血管や消化管にステント(金属製の網状の筒)を挿入して再開通させる治療。鼻から胃や腸に挿入されているチューブを、首から挿入して鼻を楽にする治療など。がんに関わるさまざまな苦痛に対して、最小限の侵襲で多種多様に応用できるのがIVRの強みだ。

 しかし、広く普及させるにはエビデンス(科学的根拠)が必要。荒井センター長は、2002年に腫瘍IVRを臨床試験により評価する「日本腫瘍IVR研究グループ(JIVROSG)」を結成。現在、全国90以上の施設がデータ作りに参加している。

「JIVROSGで行った臨床試験では、さまざまな緩和IVRにより若干の相違はありますが、症状が改善する頻度はおおむね70%前後でした。どのような症例に活用できるかの判断には専門的知識が必要ですが、選択肢のひとつとして多くの方に知っていただき、活用していただければと願っています」

 がんによる苦痛が取り除かれることにより、がんは変わらなくとも体の状態が見違えるように良くなり、経過まで良くなるケースも少なくないという。同センターでは、他の医療機関からの相談窓口も設けている。

 1962年に創設された日本のがん医療の中核拠点病院。千葉県に東病院をもつ。
◆スタッフ数=医師6人(うちIVR専門医4人)、看護師5人、診療放射線技師5人
◆IVR治療数=年間約4200件(がんの局所治療6割、緩和治療4割)