有名病院 この診療科のイチ押し治療

【多汗症手術】 NTT東日本関東病院ペインクリニック科(東京・五反田)

NTT東日本関東病院ペインクリニック科の安部洋一郎部長
NTT東日本関東病院ペインクリニック科の安部洋一郎部長(提供写真)

他人と握手できない。パソコンやスマホが壊れてしまう。試験の解答用紙が破れてしまう――。どれも手のひらの多汗症に悩む患者の訴えだ。

 厚労省の調べでは、原因となる病気がないのに手のひらや足の裏、脇の下などに多量の汗をかき、日常生活に支障をきたす「原発性局所多汗症」の重症者は国内に約80万人。薬などの保存的治療では効果がない難治性患者は約4万5000人と推定している。

 同科は、難治性の中でも手のひらと顔の多汗症に対して「胸腔鏡下交感神経節遮断術(ETS)」という手術を行っている。

 1994年に開始して以来、実施数は約20年で国内最多の約5000例にのぼる。安部洋一郎部長(顔写真)が、手術の内容をこう説明する。

「脳から発汗の指令を伝達する交感神経は、背骨の左右を上下方向に走っています。ETSは、全身麻酔で脇の下の皮膚を5ミリ、2カ所切開し、そこから内視鏡などの器具を挿入します。そして、第2か第3肋骨の高さで交感神経をクリップで挟んで遮断するのです」

 左右の脇を同時にやって所要時間は1時間~1時間30分。術前検査を外来で行えば1泊2日の入院で済む。この治療を行うと、手のひらや顔の発汗を劇的に減らすことができ、多くの場合(75%)でその効果が生涯持続するという。

 ただし、ETSを受ければ“100%バラ色”というわけではない。この手術には、必ず「代償性発汗」という副作用を伴うからだ。

「手のひらや顔の多汗は治りますが、体全体の発汗量は変わらないので、その分、胸や背中、お尻、太ももなどの発汗が増える代償性発汗が大なり小なり起こります。それを後悔する方がいるので、安易に手術は行いません。他に治療法がなく、この治療法を十分理解して強く希望する患者さんのみに検討する、最終的な多汗症治療になります」

 ETSは本来、交感神経を切断する治療法だが、同科では2004年から神経を切らずにクリップを外せば元に戻るクリップ法を本格的に導入。クリップ法は世界的には主流だが、コスト高などから国内では行う施設が少ない。これも代償性発汗に対する配慮で、特別な理由がない限りETSはクリップ法で行っている。

「術後2週間以内であれば、クリップを外せば確実に元に戻ります。ただ、本当に困っている人は代償性発汗があっても元には戻りたくないものです。クリップ法は約800症例になりますが、ほとんどの患者さんが後悔せずに喜んでくれています」

 同科にとって、多汗症治療は診療のごく一部。そもそも本来の診療は痛みを取り除く“神経ブロック”が中心で、年間患者数4万人は異例の多さだ。

 同院は1976年に国内初のペインクリニック科を創設してから、日本のペインセンター的な役割を果たしている。

 関東逓信病院から改称したNTT東日本の直営病院。伊豆病院、札幌病院、東北病院がある。
◆スタッフ数=常勤医6人、非常勤医10人、臨床心理士2人
◆年間受診者数=延べ約4万人
◆胸腔鏡下交感神経節遮断術(ETS)の年間実施数=30人前後