有名病院 この診療科のイチ押し治療

【早期肺がんの単孔内視鏡治療】 日本医科大学千葉北総病院・呼吸器外科(千葉・印西市)

(提供写真)

 できるだけ体を傷つけたくない――。そう考えている人には見逃せない手術法だ。

 現在、肺がん手術の主流となっている胸腔鏡下手術は、脇の下を大きく切開(20センチくらい)する開胸手術と違って、体への負担が格段に軽い。

 ただし、同じ胸腔鏡下手術でも、いくつか種類がある。テレビモニターと小切開の部分からの直視観察を併用する「胸腔鏡補助下手術」や、テレビモニターの観察だけで手術する「完全胸腔鏡下手術」などだ。

 同科は、その胸腔鏡下手術よりもさらに侵襲が少ない「シングルポート(単孔式)胸腔鏡下手術」(以下、シングルポート)を手掛ける数少ない施設だ。平井恭二病院教授が言う。

「切開は1カ所のみで、サイズは切除した肺葉が無理なく取り出せる4~5センチ。そこから内視鏡や鉗子などを挿入して手術します。肺がんだと基本的にはステージⅠ期の早期がんが対象。リンパ節転移のない長径2~3センチ程度の限局した腫瘍です」

 肺は、右側に3つ、左側に2つある「肺葉」に分かれている。現時点でエビデンスがあるのは、がんのできた肺葉を丸ごと取る「肺葉切除+リンパ節郭清」で、これが標準手術だ。

 呼吸器疾患に対するシングルポートは、欧州を中心に2004年ごろから始まり、肺の部分切除や、転移性肺がんの手術で行われてきた。肺がんの肺葉切除まで行うようになったのは2011年から。平井氏は4年前から気胸や縦隔腫瘍など他の呼吸器疾患の手術にシングルポートを用い、2012年から早期肺がんへの肺葉切除を始めた。

 これまで肺がんでは65例、他疾患を含めると100例以上を手掛けた。国内最多となるシングルポートの第一人者だ。

「シングルポートを始めたのは、“真の低侵襲とは何か”と疑問を感じたからです。最も侵襲の少ないといわれている完全胸腔鏡下手術では、肋骨の間に2センチほどの3つないし4つの孔を開け、最終的に病変を含んだ肺葉を取り出す際、1つの孔の傷を約4センチに伸ばして体外に取り出すというスタイルをとっています。この術式は、一見、傷は小さくても、肋間神経障害による慢性的な胸の痛みを訴える患者さんが意外と多いことが難点です」

 肺がん手術は、手術時に肋骨の下側を通る肋間神経を損傷しやすく、術後に肋間神経痛の合併症が残りやすい。

 特に開胸手術は約50%が2カ月以上にわたり痛みが続くといわれる。

「シングルポートは肋間神経と隣接する傷口をゴム製のリングでカバーし、肋間神経に対して愛護的に手術するので、肋間神経障害の発生が格段に抑えられます。明らかな肋間神経障害の合併率は全手術症例の5%前後。多くの患者さんは1週間程度で痛み止めの薬がいらなくなります」

 ただし、シングルポートは患者に優しい分、器具の操作に高度な技術を要する。完全胸腔鏡下手術を十分に経験していないと習得が難しいという。

 ちなみに同科が、シングルポート中に開胸手術へ移行したのは過去に1例のみだという。

「手術手技の向上ならびに手術器具がより改善すればシングルポート手術はさらに容易になり、胸腔鏡手術の際に必ずしも体に3つも4つも孔を開ける必要はないと考えています」

 日本医科大学の5番目の付属病院。2001年、全国で初めてドクターヘリを導入。
◆スタッフ数=呼吸器外科医3人
◆年間初診患者数(2014年)=265人
◆年間手術件数=約160例(うち肺がん手術60~70例)
◆肺がんのシングルポート胸腔鏡下手術の割合=20~30%