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【超微小外科手術】 東京大学附属病院形成外科・美容外科(東京・文京区)

東京大学附属病院形成外科の光嶋勲教授
東京大学附属病院形成外科の光嶋勲教授(提供写真)

 漫画「ブラック・ジャック」の世界が現実のものになりつつある。

 形成外科分野に、失った体の一部の形や機能を復元する再建外科がある。特に、顕微鏡を見ながら直径1・5~3ミリ前後の血管や神経をつなぐマイクロサージャリー(微小外科)は日本のお家芸。1965年、日本人医師が世界で初めて完全に切断された指の再接着に成功して以降、常に世界をリードしてきた。

 同科を指導する光嶋勲教授は、さらに細い直径0・3~0・5ミリ前後の超微小の血管や神経をつなぐスーパーマイクロサージャリー手術の第一人者。約30年の実績を持つ。

「指の再接着は、切断部が指先になるほど血管が細く、手術は難しくなります。当科の指先の成功率は80%(一般平均約50%)です。仮に失敗しても足指を移植する方法がある。見た目は、ほとんど分かりません」

 事故で指を切断した場合、乾燥しないようにスポーツドリンク(食塩水)で湿らせたガーゼで包み、ポリ袋に入れて4度くらいの温度で冷やす。なるべく早く、10時間以内に病院に持ち込めばまったく問題はないという。

「手術で使う針の太さは20分の1ミリで、糸はその半分。独自に開発した極小の器具を使って微小血管を吻合します。局所麻酔なので、患者さんも手術の様子をモニターで見ています。再接着した指に針を刺して血流の再開を確認すると、感激して泣きだす人もいます」

 自動車事故や工場での事故が減り、切断指の発生自体は少なくなっている。代わってスーパーマイクロサージャリーを使う治療で増えているのが、年間約200症例のリンパ浮腫。がん治療後の後遺症として表れることが多く、リンパ液の流れが滞って脚や腕が腫れ上がる病気だ。

「直径0・3ミリのリンパ管を直径0・8ミリの静脈につなげて、リンパ液が静脈に流れるようにバイパスを作るのです。患者さん1人に3時間くらいかけて、3~4人の医師が2~3本ずつ合計10本くらいつなぎます」

 リンパ管の状態にもよるが、治る確率は腕の浮腫で70%、脚の浮腫は30%くらい。成功率は上がってきているという。

 リンパ浮腫の治療法は、光嶋教授が90年に開発し、他にも栄養を送る細い血管が付いた神経束を使った再建、神経束を途中で割いて長くしてつなげる再建など、数々の術式を編み出してきた。

 耳の入り口付近の軟骨を使って気管を作る、ヘソの組織で耳穴を作る、足指の股の組織で口角を作る、耳の縁の一部で鼻穴を作る、盲腸から尿道を作るなどの再建も行う。

 同科には、一般外科や耳鼻咽喉科からも医師が再建医療の技術習得のためスタッフとして参加している。

「スーパーマイクロサージャリーは、さまざまな診療科で応用できます。ここ数年は0・1ミリ前後の吻合が可能な“ナノマイクロサージャリー”も始めています。微小な血管がつながればつながるほど、最高の再建手術ができるのです」

 光嶋教授は海外で公開手術や講演などを行い、日本の再建外科の技術を発信し続けている。

 1858(安政5)年設立の「神田お玉ケ池種痘所」が起源。1960年に国内初の形成外科を開設。
◆スタッフ数=助教以上の常勤医9人(合計18人)
◆年間初診患者数(2014年度)=775人
◆超微小外科手術数(同)=287例