有名病院 この診療科のイチ押し治療

【がん患者の心のケア】 埼玉医科大学国際医療センター・精神腫瘍科(埼玉・日高市)

埼玉医科大学国際医療センター診療科長の大西秀樹教授
埼玉医科大学国際医療センター診療科長の大西秀樹教授(C)日刊ゲンダイ

 精神腫瘍科は、がん患者の心のサポートや治療を専門とする。同院は、大学病院としては日本で初めてその診療科目を掲げた。がん患者の心の状態について、診療科長の大西秀樹教授(顔写真)はこう説明する。

「がんを告知された患者さんは、強いショックで1週間くらい何も手に付きません。通常なら告知後、2週間ほどで不安・抑うつの時期を経て元の心の状態に回復しますが、中には回復しない人もいる。初発がんの13~14%が適応障害、4~5%がうつ病を併発。再発時の有病率は適応障害35%、うつ病7%という研究結果が出されています」

 さらに、告知から1週間内に自殺するリスクが12・5倍、心血管障害を起こすリスクは5・6倍高まるという海外のデータもある。

 適応障害は、がんの診断などのストレスによって不安や抑うつ気分が強まり、一定期間、日常生活に支障をきたす状態。より症状が重く、長期に及ぶとうつ病になる。外来は主治医や看護師に受診を勧められた患者が中心だが、入院患者も緩和ケアチームの一員として満遍なくサポートする。

「がんになれば誰もが不安や悩みを抱えるので、その訴えが病的なものなのか見極めることが大切です。それによって薬が必要になるかなど、対処が違ってきます」

 患者が何に困っているのか問題を聞き出して十分理解し、何をどう解決できるか一緒に考える。がんの進行や治療に不安があれば、がん認定看護師に説明してもらう。お金の問題があれば、ソーシャルワーカーにつなげることなども行う。

「多いのは、“自分は死んでしまうのではないか”“再発したらどうしよう”という漠然とした不安。眠れない、食欲がないなどの症状で治療意欲が低下してしまう。がんの治療が続けられるように援助することが私たちの大事な役割です」

 患者本人だけでなく、その家族の心をサポートする「家族外来」「遺族外来」を設けているのも同科の特色だ。がん情報を集めたり、治療や入院に付き添うなど、やらなくてはいけないことが多い家族の方が精神的な負担は大きいという。

「多くは“患者本人にどう声をかけ、対応したらいいか分からない”と悩み、家族関係がギクシャクします。がんは療養期間が長いので、極端に優しくなったり無関心になったりしないことが大切。言動を含めて、家族バランスを元に戻します」

 遺族外来は、院外からの患者が9割を占める。「つらかった闘病を思い出す」という理由で、家族が亡くなった病院には行きたくないケースが多いのだ。

「最も多い苦悩は、診断時から治療、みとりを通して“もっと、こうしておけばよかった”という自責と後悔の念です」

 遺族外来の受診者の半数以上は、周囲からの「どうして、がんに気づかなかったの?」という言葉に傷つき、約5人に1人の割合でうつ病を発症しているという。

「私たち精神腫瘍医は、がんは家族、遺族も含めて診るのが当たり前だと思っています」

 2007年4月開設。本院と分担し、がん、心臓病、脳卒中の高度専門医療を担当。
◆スタッフ数=精神腫瘍医4人(うち非常勤3人)臨床心理士1人
◆外来初診患者数(2014年度)=246人(うち家族13人、遺族30人)