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【食道がんの鏡視下手術】 昭和大学病院消化器・一般外科(東京・品川区)

昭和大学病院消化器・一般外科の村上雅彦教授
昭和大学病院消化器・一般外科の村上雅彦教授(提供写真)

 群馬大学病院や千葉県がんセンターで、術後に患者が相次いで死亡したことで腹腔鏡手術の安全性に注目が集まっている。患部に数カ所小さな穴を開け、内視鏡や器具を挿入して手術する“鏡視下手術”。患者の体への負担が少なくメリットが大きい分、医師には熟練した技術と豊富な経験、慎重さが求められる。

 同科は、その鏡視下手術をテーマにしている。特に食道がんでは、1996年から胸腔鏡と腹腔鏡の併用を標準的な術式としてきた。従来の開胸・開腹手術の適用になるステージⅠ~Ⅲ期の症例を、100%鏡視下手術で行っている。その“昭和大方式”を確立させてきた村上雅彦教授(顔写真)が言う。

「開胸・開腹の手術時間は平均8時間くらい。一方、当科の鏡視下手術は平均4時間前後。人工呼吸器も手術直後(通常は2~4日)に外せて、翌日から歩行ができます。入院期間も10日~2週間と従来の約半分で退院できます」

 食道がん手術は、胃を食道の代わりにして再建するため、開胸・開腹手術では胸部と腹部、頚部をそれぞれ約15~20センチ切開。さらに各部位のリンパ節も切除する。がんの手術の中でも、大がかりで体の負担が大きい手術だ。特に胸部は、胸を大きく広げ、肋骨を切断する場合もあり、術後の痛みが強く、肺炎などの合併症や呼吸不全を起こしやすい。合併症が術後1カ月以内の死亡につながる手術死亡率も全国平均約3%(術式問わず)と高い。

「手術数が多く、慣れている施設でも手術死亡率は1~2%ですが、当科は直近10年で見てもゼロです。肺炎合併率は3%以下(全国平均20%前後)、縫合不全は1・3%(同15%前後)。5年生存率は開胸・開腹手術と変わりません」

 また、開胸・開腹手術は75歳を越えると体の負担を考え適用にならないことが多いが、胸腔鏡・腹腔鏡併用は80代でも可能。同科の最高齢患者は93歳だという。

 鏡視下手術のデメリットは、医師の技術の習得が難しい点。患者は施設、医師選びを慎重にする必要がある。他施設でも胸腔鏡・腹腔鏡併用は行われているが、胸腔鏡・開腹併用や開胸・腹腔鏡併用と並行して実施しているケースがほとんど。全症例を胸腔鏡・腹腔鏡併用で行っている施設は、同科を筆頭に全国でも2、3施設しかない。

「他のがんと違って、食道がん手術は施設によって技術の差が大きい。それは食道がんの罹患数が胃がんの6分の1程度しかなく、医師が手術の経験を積みにくいからです。食道がん手術は月間2例でも多い方で、年間50例以上あるのは全国20施設くらいに集中しています。手術数の多い施設ほど技量が高いのです」

 日本内視鏡外科学会の食道部門の技術認定医(約40人)が3人いるのもここだけだ。食道がんの胸腔鏡・腹腔鏡併用のこれまでの実績は約650例。

 村上教授は、国内外の他施設の指導にも出向いており、自身が約20年で手がけた食道がん手術は約500例になる。

 1928年開院。9つある昭和大学付属病院の本院。
◆スタッフ数=外科医23人(うち食道外科指導医3人)
◆年間紹介初診患者数=平均650人
◆総手術件数(2014年)=1062例(鏡視下手術率85%)
◆食道がん鏡視下手術件数(2014年)=80例