では、どうするのか。炎症による手の痛みは、抗炎症剤や痛み止めの注射で、ほとんどが手術なしで治る。同外来では、練習を続けても痛まず再発させないように、負担の少ない“練習の仕方の工夫”を個々の患者に合わせて指導をしている。
「たとえば、ピアニストが手を痛める原因の約8割はオクターブや和音の練習です。共通するのは親指と小指を広げた状態で打鍵することです。故障しないピアニストは、打鍵する合間に無意識に力を抜いていることが分かっています。ですから、演奏時の脱力の方法を指導したり、練習前にストレッチするようにアドバイスしています」
同外来の診察室はある程度、防音の効いた個室になっていて、診察時には実際に楽器を弾いてもらい、手に負担のかかる部位を“工学的視点”で細かくチェックする。
音楽家の治療を始めた当時は専門家はおろか教科書も皆無。このような診療ができるのは、酒井医師が工学系大学でバイオメカニクス(手の動作解析と障害評価)の実験をしながら、自ら音楽家医学を構築してきたからだ。現在も宇都宮大学大学院工学研究科の教授を兼務し、バイオメカニクス研究室をもつ。
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