有名病院 この診療科のイチ押し治療

【高度難聴の人工内耳手術】 虎の門病院・耳鼻咽喉科聴覚センター(東京・港区)

虎の門病院耳鼻咽喉科聴覚センターの熊川孝三部長
虎の門病院耳鼻咽喉科聴覚センターの熊川孝三部長(C)日刊ゲンダイ

 重症の高度難聴者に行われる人工中耳、人工内耳、脳幹インプラントなどの人工聴覚治療。これらに使われるすべての人工聴覚臓器を扱う国内唯一の施設だ。特に人工内耳は、1987年から東京医科大、京大と並んで国内で初めての治験を開始した実績をもつ。

「大学病院からの紹介患者さんが多いのが特徴です。人工中耳・人工内耳手術、アブミ骨手術の件数は全国トップです」と胸を張る熊川孝三部長。人工内耳とはどんな仕組みなのか?

「手術で耳の奥などに埋め込む部分と、音をマイクでひろって埋め込んだ部分へ送る体外部からできています。マイクで集めた音は電気信号に変換され、耳の後ろに埋め込んだ受信装置へ送られる。それが、音を感じる蝸牛の中に埋め込んだ電極から聴神経を介して音として認識されるのです」

 内耳が原因の先天性高度難聴は、1000人に1人の割合で生まれてくるといわれ、病気や外傷による中途難聴を合わせると20万~30万人いると推計される。そのうち年間約1000人が人工内耳の手術を受けている。

 しかし、人工内耳の適応は両耳とも90デシベル以上の高度難聴に限られる。患者の中には高音は聞こえないが、低音なら90デシベル以内でも聞こえるタイプの高度難聴もいて、これまで有効な治療法がなかった。それが昨年7月、そうしたタイプの高度難聴に「残存聴力活用型人工内耳(EAS)」が保険適用になった。同科は5年前から先進医療としてEAS治療が認められた5施設のうちのひとつだ。

「EASは、低音域は補聴器で、高音域は人工内耳で聞き取るハイブリッド型人工内耳です。低音域が残る人でも、補聴器をつけて言葉の聴力が60%未満であれば適応になります。より早い段階から人工内耳を使えるようになりました」

 昨年、同科が行った人工内耳手術は40症例、そのうち約2割はEASの手術が占めている。これらの最先端の人工聴覚治療を最大限に生かせるのも、高度難聴ではほとんどのケースで同時に遺伝子診断を行っているからだ。熊川部長は臨床遺伝専門医でもある。

「高度難聴の患者さんの約40%は遺伝子診断で遺伝子が関与する原因が特定できます。それにより、難聴の進行が予見でき、その結果によって治療法の選択肢も変わってくる。遺伝情報に対応して先手、先手で治療方針を提示することができるのです」

 発症は1万人に1人とまれだが、中耳にある耳小骨が固まる耳硬化症という病気がある。この治療には、人工骨に置き換える“アブミ骨手術”というミリ単位の手術が必要だ。全国で年間300症例近く行われ、その約3分の1を同科が手掛ける。ロボット手術(ダ・ヴィンチ)でもできない、マイクロスコープを用いる微小で高度な技術を要する繊細な手術だ。

「いま、次々と新しい人工聴覚臓器が開発されていて、高度難聴の治療の幅は広がっています。遺伝子診断や言語聴覚士の技術、リハビリ設備の充実した信頼できる医療機関を選べば、高度難聴治療はあきらめる必要はありません」

 国家公務員共済組合連合会の中核病院(東京・虎ノ門)。川崎市とさいたま市に分院あり。
◆スタッフ数=耳鼻咽喉科医7人、言語聴覚士2人
◆初診受診者数(2014年)=1535人
◆手術件数(2014年)=425例(うち中耳・内耳手術190例)